2013年12月12日

稀なケース

お電話で『日本の古本屋』に出品している本について、お問い合わせをいただきました。

ちょっと急いでいるので、在庫を確認してもらいたい、とのことです。否やはありません、折り返しご連絡しますと申し上げ、すぐ調べました。そして、ちょっと困ったことが判明しました。

同じ本が二冊出品されているのですが、在庫は一冊。両者の価格に開きがあり、安い方は過去に売り切れたものです。手違いで古いデータを、アップしてしまっていたようです。

RIMG0732何とご説明しようか一瞬悩みましたが、事実をそのままお伝えすることにいたしました。

お客様としては、もちろん安い方をお望みでしたので、当然の疑問を発せられます。「どうして値段の違いがあるのですか」

実はこの二冊の間に、別に二冊、売れておりまして、少しずつ売値は上がっています。「仕入れ値も上がっておりますので」とご説明したところ、「もう一度考えてみます」と、いったんお電話が切られました。

後刻、結局ご注文をいただけたのですが、いささか申し訳ない気分ではあります。

仕入れれば売れるという、こんな類の本が、ほかにいくらもあれば古本屋稼業も、もう少し楽しいものになるでしょう。過去には、そういう時代が確かにあったとも聞きます。

しかし現在では、今回のようなケースは極めて稀。現に、今日は一日、在庫整理をしたのですが、調べる本、調べる本、ことごとく大きく値崩れしていて、値段の付け替え作業に追われました。

もちろん値下げです。こうした本なら、間違って古いデータを上げたからといって、なぜ値が違うのかと、お咎めを受けることはありません。

それはそれで悲しいことですが。

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2013年12月11日

学生街の古書店

用あって、立教大学まで行ってまいりました。今日の午後のことです。

ずいぶん昔、車で前を通りかかったことくらいはありますが、訪れるのは初めて。駅から学校までの道を歩くのも、初めてのことでした。

それでもどこか懐かしい、親しみのある雰囲気を感じました。わが母校と同じプロテスタント系大学で、レンガ造りの建物が多いなど、似通ったところがあるからでしょうか。

RIMG0738通りの様子は、今出川辺りと似たところはありませんが、学生たちが街を歩いているというだけで、古い記憶がよみがえってくるようです。学生街という言葉を久々に思い出しました。

思えば駒場は、街とは言いがたい長閑な風情ですし、第一、小店の前を歩く学生の姿を見かけるのは、数えるほど。それに比べて「立教通り」は、学生たちが闊歩していました。

その通りの、大学正門にもほど近く、一軒の古書店、「夏目書房」があります。三代続く老舗で、その三代目と小店主とは仕事仲間なのですが、今は神保町店に主力を注いでいて、池袋店は、つい最近先代が逝去されて以降は、店員に任せているようです。

通りがかりに外から覗いただけですが、しっかりした本が棚に並んでいました。表の均一本も、なかなか充実していて、本好きなら喜びそう。

しかし、それだけに一層、楽しげに話しながら通りを歩く、学生たちの興味を惹いているようには見えませんでした。

かつてなら、最高の立地と思われもし、実際そうだったはずですが、今では必ずしも古本屋に適した場所とは言えないのかも知れません。

そう考えたからこそ三代目も、新たな出店を試みられたのでしょう。神保町では、意欲的な店づくりをされています。

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2013年12月10日

それでも捨てられない

お昼過ぎに古書会館に着き、エレベーターの前に立つと、「本日の洋書会は地下で開催いたします」という貼り紙が目に入りました。

前日にカーゴ15台という大口が運び込まれ、置き場に困って地階に収容したらしく、それを今朝になってもう一度、4階まで上げるよりは、そのままそこで仕分けして、入札も行おうということになったようです。

洋書会にとっては、初めてのことではありません。陳列できる面積が広い分、本が良く見られるという利点はあるのですが、仕分けのための十分な作業台がないなど、不便な面もあります。

ともあれ、店主が着いたころにはほぼ片付いておりました。他にもカーゴ5台の口などがありましたから、当番はさぞ大変であったことでしょう。

今回の大口出品者は、かつての洋書会員。神保町の老舗として辞書、語学書の分野では名の通っていた店で、10年ほど前、その店をたたみ隣県に移転。店舗を持たず、ネットだけで営業を続けてこられました。

この度そのネット販売も打ち切って廃業されることになり、その在庫処分だったわけです。

当初、段ボール40箱ほどと聞いておりましたので、よほど厳選して残しておられたのかと思っておりましたが、いざ届いてみると、その何倍もの量。やはり捨てきれないのが本屋の性であると、改めて得心いたしました。

実際は、捨てきれずにとってあった本の大部分は、大きな山にまとめられ、封筒には辛うじて誰かの札が入っているという状態。ごく安い値にしかなりませんでしたが、別の見方をすれば、すべて札が入ったことが驚きです。

落札した人にとっては、これからその山を整理し、売れるものと、廃棄するものを分別する作業が必要で、保管場所の確保と合わせ、それが大きなコストになるわけですから。
RIMG0711
15台のなかには、もちろん良い値の付きそうな本もあり、一部は来週の特選市に回されました。

量にすれば全体の数%、そちらの方が、今日の出来高より、高くなることは間違いなさそうです。

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2013年12月09日

法を守る、法で守る

先日横浜まで車で出かけた時、通ったのは第三京浜、首都高速神奈川2号1号3号というルート。首都高料金所で「900円です」と言われて驚くほど、久しぶりのことでした。

第三京浜は、何度も走ったことがあり、片道三車線のゆったりした道ですから、久しぶりでも落ち着いて走ることができました。

ところが首都高に入ると、塀で囲まれた二車線の曲がりくねった道路が続きます。この道を利用するのはせいぜい二度目くらいで、殆ど初めて同然。

土曜日の午後というのに交通量が少なく、前方には車が見えません。たまに後方から接近してくると、あっという間に追い抜いて行きます。

60キロの制限標識は有って無きがごとし。何しろこちらだって、それ以下で走っているわけではありません。それを焦れたようにして抜き去っていくのですから。

当方は、ナビの導くまま、どこへ連れて行かれるかも良くわからずに走っておりましたので、やみくもにスピードを出せないのは、ただ順法精神からばかりではなかったのですが。

これに限らず、日ごろ車を運転していると、様々な場面で交通規則が無視されていて、大勢に従えば自分も無視せざるを得ない状況があることは、誰もが経験しているはず。

守ることの方が難しいという状況を放っておいて、規則に手を加えようとしないのは、簡単に守れる法律では、取り締まる時に成果が上がらないからなのでしょうか。

RIMG0709ところで、その取締りを事前に知らせる電子機器が市販されているのですね。要領のいい人は、それを車に取り付けて、心置きなく首都高でも、裏道でも、飛ばしているのでしょう。

何を守るのかが分からないような法を、守らせるのは難しいということですか。

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2013年12月08日

偉大なる先達

イメージ (150)「文求堂主人」という文字だけを見て、何の気なしに函から本を出して開いてみると、なんと中文ではないですか。

改めて函の表題を見ると田中●太郎と、黒丸のところが簡体字で書かれています。

田中慶太郎というその名くらいは、古本屋の端くれとして聞き知っておりましたので、却って気づかずに読み飛ばしていたのでしょう。

伝説の古書店主について書かれた本だと思い、せっかく読んでみようと思ったのに、一頓挫をきたしました。

しかし第一篇「評伝」につづく第二篇「書簡集」は、親交のあった郭沫若が、文求堂主人に送った書簡を中心とした図版集。それを眺めて、氏の事績の片鱗を偲ぶことにいたしました。

ところが有難いことに、函にはもう一冊、32pの薄い冊子が入っていて、これが「評伝」篇の原文、すなわち日本語版でした。

厳密にいうと「序文」は日本語版にはなく、中文版にない『紙魚の昔がたり』からの抜粋が、日本語版冊子には加えられています。

冊子に掲載されているのは、『昔がたり』を除くと9編の文章。そのうち8編までが『日本古書通信』に寄稿されたもので、4編は追悼文(昭和26年)、3編は閉店を惜しむもの(昭和29年)。追憶記が1編(昭和49年)。

石田幹之助、仁井田陞、神田喜一郎、長澤規矩也といった著名な学者とともに、反町茂雄、齋藤兼蔵という古書店主などの筆により、田中慶太郎という人物像が、いくらか浮かんできます。

『古通』以外の1編は『朝日新聞』の記事(昭和41年)で、「町の本屋さんの追憶文集」「17回忌を機会にオランダ大使らが準備」と題されたもの。「その道の世界的権威者が集まって、一書店主の追憶文集を作るのは珍しい」とあります。

この企画は、当の大使の死去などにより、幻のものとなったと思われますが、惜しいことでした。もとより一番惜しんだのは、本書の出版者、田中壮吉氏(慶太郎氏ご子息)であったことは、間違いありません。

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2013年12月07日

「芸術その魅力」

横浜まで、宅買いに行ってまいりました。といっても、初めてのお客様ではありません。再々このブログでもご紹介しております、店主が尊敬する先輩、木下長宏さんのお宅です。

集英社の 創業85周年記念企画『コレクション 戦争×文学』に関わっておられたのですが、そちらの仕事が一段落し、借りていた仕事場を引き上げたことによって、溢れてしまった資料を整理したいからとのことでした。

今回のところは段ボール7箱分くらい、というので、それなら自分の車でちょうど引き取ってこられる量です。久々お目にかかるのを楽しみに、出かけました。

店主より一回り近く年上ですが、相変わらずお元気で、次々と新しい仕事に取り組んでおられます。もっぱら最近送っていただいた二冊の本(『新訳茶の本』『ミケランジェロ』)をめぐって、話が弾みました。

RIMG0688とくに『茶の本』については、つい先日、NHKカルチャーラジオで、茨城大学の小泉晋弥教授が講じておられる「岡倉天心が見出した“日本の美”」を聴いていて、木下さんの新著を紹介されているのを耳にしたばかり。

そのことをお話しすると、かねて小泉教授はご存じでも、その番組をやっておられることはご存じでなかったようで、喜んでいただきました。

ところがそのカルチャーラジオに、木下さんご自身が、近々登場することになるというのです。そもそもは、木下さんから、今度「ミケランジェロ」をラジオで話すことになる、と切り出されたのが先でした。

それを伺い、驚いて店主が、それは自分の愛聴番組であり、実は先日も…、と説明したというのが実際のところです。

水曜日の「芸術その魅力」という、まさに同じ枠で、4月からの3ヶ月間。年が明けたら収録に入るとか。楽しみなことではありますが、ビジュアルが使えないラジオという媒体で、どのように話を組み立てていくか、もっか頭を絞っているところだそうです。

木下さんにはもう一つ大きなテーマがあって、それは「ゴッホ」。こちらについても、一つ仕事が入っているそうで、お体に気を付けて、これからも活躍していただきたいと思います。

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2013年12月06日

笑顔で送る

10月の崇文荘書店・佐藤毅さんに続いて、泰雲堂書店(文京区)の創業者、金澤泰次郎さんが亡くなられ、今夜、明古を終えてから、その通夜に行ってまいりました。

RIMG0700佐藤さんが98歳であったのに対し金澤さんは享年96。40年近く前、相前後して東京組合の理事長を務められた方です。大往生というべきでしょうが、組合はまた一人、功労者を喪ったわけです。

店主にとっては、佐藤さんほどのお付き合いはありませんでしたが、ご本人ではなく、そのご子息、およびお孫さんと、時期を隔てて組合理事をご一緒するという機会を得ました。

そのご縁により、弔問に伺ったという次第です。

故人については、ひとつ忘れがたい思い出があります。15年ほど前、文生書院の創業者である小沼福松さん(この方も、古書業界の巨人のお一人でした)が97歳で亡くなられ、その葬儀委員長を務められた時のことです。

伝通院で営まれた通夜の最中に、焼香台の脇に設けられた遺族席に未亡人と並んで座られた金澤さんが、突然、ひときわ豪快な笑い声をあげられました。

たしなめる人がいたかどうか記憶はありませんが、その笑い声に続いて、「90を過ぎれば葬儀も目出度いものだ」というようことを仰いました。

おかげで、しんみりした感じではなく、しめやかながら、どこかほのぼのとした雰囲気の、温かみのある式となり、長く印象に残ったのでした。

15年を経て、今度は送られる立場となった金澤さんは、奇しくも小沼さんとほぼ同年齢に達しておられました。しかし今夜の通夜の会場には、笑い声で送る人はいませんでした。

焼香台で遺影を見つめながら、そんなことを思い返し、思わず微笑みかけたあと、静かに手を合わせてまいったのでした。

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2013年12月05日

先払いの不便

ネットなどでご注文いただいた本を、入金されるのを待って発送するようにしてから、3か月以上が経ちました。ようやく慣れてきたように思います。

それでも未だに面倒だと思うこともあります。何より頻繁に、それこそ日に何度も、銀行口座や、郵便振替口座を確認しなければなりません。

送金をご通知いただける場合はまだ良いのですが、お知らせのないことも多く、そういう方にこそ、お待たせせずにお送りしたいからです。

RIMG0717そんなにしてまで、なぜ先払い方式を取るのかと思われるかもしれません。しかしこれは、以前にも申し上げましたように、不正な大量発注など、悪質な取り込み詐欺を防ぐことが大きな目的です。

小店も過去に何度か、そうした不心得者に対し、うっかり本を先送りしてしまったことがあります。

小店自体の被害額は、大したことはありませんでしたが、そういう人物は、同時にあちこち、味をしめれば繰り返し、同様の行為を働きます。

もちろん大掛かりになったり、何度も繰り返されたりすれば、サイト管理者の方でそれを把握して、警告を出したりすることも可能です。

しかし、そうした全体が、サイトにとって余計なリスクであり、コストであると考えて、小店も先送りをやめました。

そのような理由ですので、もしご希望であれば、先に本をお送りすることはやぶさかではありません。取り分け以前にお取引いただいている方には、確認メールの文面にもそううたっております。

しかし遠慮深い方が多いようで、大抵は、こちらの新方式に合わせて、素直に先払いしていただけます。

でも、手間から言えば、先に送りたいくらい。本を取り置いておくのも大変ですし。などというほど、多くもないのですが。

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2013年12月04日

ミニカー人気

Quaint Design さんが撤収されて空いたスペースを、ただ元通り本で埋めるのも芸がないと思って、知り合いの若い古道具屋さんに声をかけてみました。

店内にちょっとした棚を入れて、そこに何か小物を置いてみませんかと。

昨日、早速やってきて、あれやこれやと少しばかり、並べて行ってくれました。

RIMG0720それだけではいくらも品物を置けませんので、店の前も使ってもらうことにしたところ、古い鉄製のトレー二つに、ミニカーを山盛りにしたものを、道端に置きました。

どれでも一個100円。これが、昨日から大人気です。通りがかる老若男女、みな屈みこんで手に取って。

小店の店頭で、これほど注目を浴びたものは、かつてなかったでしょう。もちろん人通りそのものが少ないところですから、黒山の人だかりとは参りません。それでも多少、大げさに言えば、ふと気が付くと、いつも誰かが触っている状態。

昨日の午後から今日の夕方までで、調べてみたところ、17台のミニカーが売れた勘定です。

なんだそんなものか、とお笑いになるかもしれませんが、お一人がせいぜい1台か2台。しかもそれを決めるまでに、本物の車を買うほどの熱心さで時間をかけ、吟味、検討されます。

まるっきりの誇張でもないことが、お分かりいただけるでしょうか。

しかし、売り上げの面では、あまり頼りになりそうもありません。やはり空いた本棚に、早く本を詰めて、少しでも売り場として機能するようにしなければと、作業を続けております。

せっかくの機会ですので、良い棚を造りたいと、本の内容、価格とも、いちいちチェック。その結果、なかなか捗りません。

それでもここが我慢のしどころ。お客様にも、今しばらくのご辛抱をお願い申し上げる次第です。

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2013年12月03日

学の独立

RIMG0694これは全く知りませんでした。昨日と同じ本から、もう一度引かせていただきます。

田中克彦さんの話。「1967年だったか、韓国から西ドイツに留学していた全部で24人の留学生…が、ある日突然、路上から大学の校庭から、姿を消したんですよ」

金大中氏と同じように、袋詰めにして、飛行機でソウルへ拉致されたという事件。

そのとき、「ドイツ全土の大学が一斉に抗議して、『これは大学の自治と学問の自由に対する侵害だから現状に復さない限り国交断絶、国際貿易も全部断つ』という宣言をしたから、韓国はわりと早いうちに全部もとにもどしたんです」

さらに続けて「つまり、大学の学問というのは、国家の権力を超越しているんです。権力から超越しているのは大学と尼僧院なんですね。…だから日本でも警官は大学の構内に入らないというのは、その伝統なわけです。大学の自治、つまり学問の自由というのは、絶対なのです」

ちなみにこれは、言語学者としても知られる、フンボルトについて語るなかで出てきたお話。そういう原則を作ったのが、他ならぬフンボルトであったと言います。

よく、日本人とドイツ人は規律を重んじる点で似通ったところがある、などと語られますが、大学という制度一つをとっても、彼我に大きな違いがあって、それが国民性に基づくのだとしたら、少しも似たところはありません。

ドイツのような考え方に立てば、日本には、大学というものは存在していないも同然です。ランキングどころの話ではない。

産官学連携が当然のことのように語られ、しかもそこに今度は特定秘密保護法案が制定されれば、学問の自由などというのは、有って無きがもののごとし。

それとも、そんなものは、疾うにないのだと、我が国の大学人は達観しておられるのでしょうか。

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