2017年06月01日

ペリカンさん

伊藤さんは週二日の講義の日はめったに休むことなく遠い中央線の豊田から朝早く登校され、急な崖の近道を身軽に駆け下りられ、駆け上がられていた。そしてほかの語学の教員が女性の助手を研究室に置いているのに伊藤さんだけは、助手を置かず、一人で閉じこもって居られた。ただ途中から本郷や神田の古本屋のおやじが足しげく通ってくるようになり、大量の古本や古雑誌を研究室に運び込むようになった。その殆んどが『日本文壇史』のための資料であったようだ。

第7巻まで読み進んだ『日本文壇史』の解説(奥野健男)に、こんな一文を発見して、これこそ店主がずっと気にかかっていたことだったと、思い出しました。

おびただしい文献や資料を博捜された筈ですから、必ずやどこかの古書店が、お手伝いしていたことは間違いありません。「古本屋のおやじが足しげく通っ」たとあるのを見て、さもありなんと一人相槌を打ったのです。

RIMG1955しかしこの大著が書き初められたのは昭和20年代の終わり頃。今から60年以上も前のことです。本郷や神田のなんという本屋だったのか、当時なら業界の常識だったかもしれませんが、今では事情を知る人は僅かでしょう。

それでも何人かは、そのあたりのことをご存知だと思われる先輩がいますから、今度、折を見てお話を伺ってみようと思います。

ただ店主にも、何となく想像がつく業者がいます。神田は候補が多すぎて、お店を絞り込むことが難しいのですが、本郷で文学となれば、おそらくあの店ではないかと。

ペリカン書房の品川さん。思い立ってネットで検索をかけたところ、いくつかの記事ブログが見つかりました。なつかしいテンガロンハット姿の写真も。晩年は麦藁帽だったようにも記憶しますが。

とりわけ社会評論社のブログでは、日本近代文学館との関係にも触れられています。駒場以前に、あの丸石の自転車で、本郷から大岡山まで通ったに違いありません。

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2017年05月31日

慌ただしき月末

RIMG1961一昨日の月曜日、その前日宅買いでお引き取りしてきた段ボール6箱を整理していて、お昼近くになった頃、一本のお電話をいただきました。

受話器を取るとR大のM先生です。「今日は来られないのですか?」「え!明後日じゃなかったですか?」。

完全なる店主の思い違い。お話しをいただいたのは連休明けの5月9日。メールで先生のご予定と、当方の都合を擦り合わせ「では5月29日に」と、確かにお返事いたしました。しっかり送信メールが残っております。

それなのにいつの間にか5月末の水曜日と、頭の中で勝手に入れ替わっておりました。なぜか、予定表にも記入洩れ。申し開きのしようもありません。

ともかく平謝り。その上で店主が思い込んでいた月末の今日に、延期していただいたのです。

研究室に顔を出すと、お叱りもなく「全部箱に詰めときました」。小ぶりの段ボール9箱を車に積んで、店に戻ってきたのがお昼前。

とりあえず車から降ろして店の中へ。積み上げたまま、家人と交替の昼食を店の裏でとっている最中、昨日の洋書会で買った本がルート便で届きました。

40cm縛りで8本。格別多い量ではありませんが、M先生の9箱、さらに先日の6箱と引き続いたため、またしても店内過密状態となっております。

そしてこの5月。店の売り上げは、どうやら過去最低を記録することになりそうです。

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2017年05月30日

本屋の終わりかた

さて、私儀 五月末日をもち、閉店する事となりました

こんな文面の一枚のはがきが今日届きました。差出人は龍生書林の大場啓志さん。店を閉められるというお話は、前から伺っておりましたし、それが今月いっぱいということも先日、ご本人の口から聞いております。

ですから驚きはないのですが、あらためて感慨を禁じ得ません。また一人、一時代を築き上げたと言っても大げさでない、個性的な古本屋さんが舞台から去るということに。

眺めているだけで何かご利益が得られるかのように、いつも目の届く棚に置いて、そのため背がかなり焼けてしまった一冊の本を、久々取り出して開いて見ました。

mishima三島由紀夫 古本屋の書誌学』(ワイズ出版、1998年)。奥付の刊行年を見て、今度は本当に驚きました。山の上ホテルでの出版記念会が、もう20年も前のことだったとは。

著者と格別昵懇であったというほどではない店主が、このパーティーにお招きを受けたのは、どんなご縁からだったか、今となっては定かでありません。しかしその著作に圧倒された記憶だけは鮮明です。

龍生さんは店主の6歳年長。そして開業は店主の10年前。それだけの違いでしかありません。しかし古書店として成し得たことの差は、あまりにも大きい。この一冊の本からだけでも、それがはっきり分かります。

充分にやり遂げたというお気持ちがあるからこそ、ご自身の手で完全に店を閉じられるという決断にも至ったのでしょう。これもまた一つのお手本。ただしなかなか真似できない点では、ご著書と同じです。


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2017年05月29日

規格外運賃の値上げ

世間にどれくらい告知されているのでしょうか。6月1日から、ゆうメール運賃が変わります。

ハガキが52円から62円になるというのは、かなりニュースにもなっていたようですが、ゆうメールについてはご存じない方も多いのではないでしょうか。

確かに一般の方が、ゆうメールで物を送るというケースはあまり多いとは思われません。しかし受け取る側として、費用を負担する場合だってあります。

現に小店でも、送料はお客様にご負担いただいています。その理由は前にも述べたことがありますが、店舗でお買い上げいただくことを前提に値段をつけているからです。

というわけで、6月からは改定運賃に沿って請求させていただくことになります。改定というのは、もちろん値上がりするということです。

ヤマト問題以来、運送料には同情的な風潮もありますし、店主も個人的には値上げもやむなしと思うのですが、困るのは規格内、規格外という区別が儲けられ、料金体系が複雑になったことです。

規格内というのは長辺34cm以内、短辺25cm以内、厚さ3cm以内、および重量1kg以内。この規格内サイズについては従来の運賃が据え置かれました。それを配慮と言えば言えるのでしょうが。

RIMG1969一方、規格外のものは85円から100円の値上げとなります。今日、公費購入でご注文いただいた本は、まさにこの規格外。重量は1kgを超え、厚さは5cmほどもあります。

「今月中にご返信いただけば460円ですが、月が替わると560円となります」という一文を挿入して確認メールを送信しました。

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2017年05月28日

他誌から学ぶ

サンヤツと称される、新聞紙第一面下段の書籍広告欄。今朝の朝日新聞はヤツワリではなく、ムツワリとなっていましたが、その中の一本に目が留まりました。

月刊住職」という極太明朝体の文字。「寺院仏教界の実務報道誌43年」とありますから、昨日今日の雑誌ではありません。もっとも「仏教界」の歴史を考えれば、ごく新参というべきでしょうか。

そのタイトルもインパクトがありますが、記事の見出しを読んでいくと、じつに業界誌っぽくて面白い。今まで気が付かなかったのが不思議なほどです。

RIMG1960いわく「亡き人にせめて幽霊でも会いたい」「耳を疑う痛ましき住職事件」「住職の本音『坊主丸もうけ』は本当か」「写経会がお寺と老若を結ぶ成功例5例」などなど。

こんな調子で毎月、A5判200頁以上の誌面を作っていくのは、なかなか大変なのではないかと余計な心配をしてしまいます。

東京古書組合には90年以上続く組合機関誌「古書月報」がありますが、同じA5判でも隔月でせいぜい40頁前後。それでも担当する機関誌部員(理事=組合員)たちは、毎号、企画に頭をひねっています。

ちょいと本誌を参考にしてもらうと良いかもしれません。さらに見出しを拾いますと「宗門答申10年後20年後の寺院像僧侶像」。これはありがち、似たような記事は月報でも見た気がします。

僧侶が磨くセカンドスキル」「新連載・新米住職ワーキングプア」。こちらは使えそう。それぞれ僧侶、住職を古書店主と置き換えてみたらどうでしょう。あまりにも身につまされ過ぎるでしょうか。

しかし考えてみたら、月報に投稿される記事の多くは、言うならばワーキングプア話。いまさらではありました。

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2017年05月27日

損して学ぶ

RIMG1954後々までも語り草となるであろう出品で沸いた昨日の市場でしたが、光あれば影あり。同じ市に店主の出品したアララギ叢書を含む約30冊。先日宅買いでお引き取りしてきたものですが、最低取引価格で生け捕られてしまいました。

店主自身がお客様にお支払いした金額より少なく、これだけでも実損。さらに送料も掛けておりますので、ちょっとガックリです。

止め値も入れず、買い札も入れなかったのですから、文句は言えません。自分で値をつけて売れば、何冊か売れて元値くらいは回収できたでしょうが、その手間を考えると、それで得になるかどうか。

それにしても少なからぬ専門業者が見ているはずなのに、落札者以外には誰も札を入れなかったことからも、歌集や歌人随筆類の人気のなさが伺えます。

実際、フリにも近代文学の初版本コレクションなどが出ておりましたが、かなりのビッグネームでさえ、悲しくなるほどの値であっさり競り落とされていました。それと比較すれば店主の歌集の口など、札が入っただけでも儲けものだったかもしれません。

そんな、文学書低迷の状況だけに一層、司馬遼太郎の高値は、居合わせた同業に衝撃をもって受け止められました。漱石も、一葉も、さらには賢治さえも、超えてしまったのではないかと。

果たして一握りのコレクターが求める、旬のものとして終わるのか、文学史に名を留める作家たちに伍して今後とも評価されていくのか。

タイムトラベルでもして、その答えを確かめてきたい気がします。

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2017年05月26日

逆転サヨナラ

月末の特選市だというのに、普段より出品点数も量も少なめで、よくいえば落ち着いた、どちらかというと淋しい感じもする今日の明治古典会でした。

置き入札はたんたんと進み、午後4時にならないうちに終了。続いて月末特選市恒例のフリが、始まります。

このフリという呼び名は、いわゆる口ぜり――買い手が声を出して競り上げていく、入札以前から行われてきた方法を、そう呼び習わしてきたものです。

同じくフリと言いながら、明古では、振り手が値を競り上げて行き、買い手はパドルを掲げて意思表示するという、オークション方式を採用していますから、不慣れな人にも参加しやすい反面、テンポや活気に欠けるという指摘もされてきました。

しかしテンポはともかく、活気は品物次第、ということが今日、あらためて証明されたといえます。

フリのために用意された品も、いつもより少なめでしたから、30分ほどで最後の一点となりました。そしてそこからの数分間で、今日一日の印象が、まるで覆される結果となったのです。

RIMG1952その品物は「司馬遼太郎草稿・色紙一括」とされた原稿用紙数十枚と色紙。のっけから驚くような値で始まったのですが、やがて二人の業者の一騎打ちの様相となり、双方パドルを下ろす気配もないまま、信じがたい価格に競り上がります。

このまま永遠に続くのではと不安に思われるほどでした。スタート価格の15倍近くに達し、遂に一方が折れて決着を見た時には、思わず会場が拍手で包まれました。誰もが驚嘆とともに、一抹の安堵を感じたのだと思います。

普通市としてはこれまでの最高落札価格となったこの一点のおかげで、本日の出来高もまた、一気に上昇。まさに逆転満塁サヨナラホームランとなったのでした。

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2017年05月25日

時代の証人としての本

先日の宅買い。じつは道具屋さんから電話があったとき、次々あげられる全集名はただ聞き流していたのですが、「茂吉」という名が出たことで、腰を上げる気になったのでした。

確かに茂吉の本は何冊かありました。「アララギ叢書」も何冊かありましたが、もしやと思った『赤光』はやはり見当たりませんでした。仮にあったとしても、ほかの本の年代から見て、初版ではありえなかったでしょう。

本棚を見つめながら、先日TVで見た、デニムハンターを思い出しておりました。あちらは Oh My God! とお宝にめぐり合ったわけですが。

momoiさて僅かばかりの文学書、歌集類をお引き取りしてきた中に、ちょっとかわいらしい表紙の一冊がありました。もとより高価なものでないことは明らかですが、その表紙に惹かれて持ち帰ったのです。

題名は『繪入西洋名作童話選』訳者は桃井鶴夫、版元は英研社、発行は昭和22年。気になることが二つあります。一つは元本は何か、もう一つは訳者はどんな人か。

最初の点は、その気になって調べれば分かりそうな気がします。後の方は、小田光雄さんにでもお尋ねすれば、ご存知かもしれません。知ってどうなるかというと、それで本の値打ちが決まります。

気が付いたことを一つ。国会図書館の蔵書は昭和22年1月刊。それに対して手元にあるのは同年6月刊。

版次の表記はありませんから、どれほど売れたのかは分かりません。ただ1月刊の価格は15円だそうですが、6月刊の奥付には定価28円とあります。時代相が浮かび上がってくるようです。

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2017年05月24日

ジャンク風メール

ネットからご注文をいただくと、まず在庫の検品をし、送料を調べてから「ご注文確認」メールを送信します。

送信後、クレジット決済の場合なら3日、それ以外の場合は4日ほどお待ちして、お手続きがない時、前者には「お問合せ」、後者には「ご注文確認(再)」メールをお送りしています。

RIMG1956タイトルや文面は違っても、要するにこちらのメールが届いているかどうかの確認が、最大の目的です。

ほとんどの場合は、先方のご都合、あるいは見落としなどによるもので、すぐお手続きをしていただいたり、お返事をくださったりで解決します。

まれに「スパム扱いされていた」というご連絡もいただきますが、そういう時のためにこそ再送信しているのですから、大切なルーチンだと思っております。

今日も1通、再確認のメールをお出ししました。するとやがて「こちらのメール届いていないでしょうか」というご返信。1週間後に振り込む旨の、お知らせだったそうです。

いそいでメールサーバーを検索しましたが、見当たりません。バックアップ用に使っているGmailを検索してみたところ、見つかりました。「件名なし」として迷惑メール扱いになっていたのです。さらに間の悪いことに、送信者名がアルファベット文字のみ。

デスクトップメールには連日大量のジャンクメールが入ってきます。件名なしのアルファベット送信者という組み合わせは、たとえ通常の受信フォルダーに入ってきても、削除してしまう可能性が高い。

お詫びとあわせ、そのあたりのことを、お客様にお伝え申し上げたのでした。

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2017年05月23日

膨大な在庫

昨日、急な召集が掛かり、本日の洋書会に午前中から出かけることになりました。

仕分けを要する出品がカーゴ10台あるということです。都合がついたら来てほしい、というメール。連絡手段が進歩して、便利になったのか不都合になったのか。

4階に上がっていたカーゴ10台のうち8台までが、最近逝去された同業の在庫品。この方が相当な量の在庫を持っておられることは、生前から業者間では周知の事実でした。

聞くところによると、S県某市に400坪の土地があり、本が満載の大型貨物コンテナが20台並んでいるそうです。洋書だけでも4台あるといいますから、今回はまだほんの序の口にすぎません。

店主も昔は市場の経営員をしていたことがあり、当時の記憶では、その方の札が入っていない封筒に出会うのが珍しかったほど、万遍なく入札されていました。

本当に欲しいと思われた本以外は、ほとんど最低価格の入札でしたが、市場が終わると落札品が山のようになっていたものです。

1人2人手伝いを使われて、買い上げ品を仕分け直しては、せっせと出品もされていましたが、それくらいで片付く仕入れの量ではありません。そんな状況が40年以上続いて、膨大な在庫となったわけです。

RIMG194880歳を超えても、毎日のように市場に顔を出しておられましたから、訃報に接した時は驚きでした。その飄々とした話しぶりが、今も脳裏に鮮やかです。

これからは順次、その在庫品が洋書会を賑わしてくれることになりそうです。

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