2010年02月

2010年02月28日

本と値段

一人のお客様が店に入る前に、手に持った本の値段をお確かめになり、はっとしたように元の場所へ戻して、そのままお帰りになりました。

ちょうどその時見ていたのが、昨日申し上げた稀覯本フェアのカタログです。

3500万円の奈良絵本を筆頭に、和本、刷り物、自筆物、西洋古刊本など高価な本が満載。参加各店の気合の入れ方が伝わってきます。

下世話な眼で拾っていくと一千万円以上の本が十数点、百万円以上は数知れず。数十万円台には驚かなくなり、数万円の本はなにかお買い得品のよう。

参加店には日頃、同業としてお付き合いいただいている書店も多いのですが、今更ながらその蓄積の違いに、啄木にならって花でも買って帰りたくなりました。

ただ、本屋としてはとても勉強になる資料です。もちろん一生扱うことのないような本ばかりですが、自分なりの価値体系を持つ上で、ある分野の最高級品の価格情報を得るのは有益です。

本当は、それが売れたかどうかの方がもっと重要ですが、それは実際に扱う人たちのこと。小店あたりには、桁の違いが分かるだけでも充分。

その意味で店主が最も感心したのは、外国から参加している書店が出品する『ピーターラビットのおはなし』(1901年)初版私家版250部の一冊。表示価格は1200万円。これを見るためだけにでも会場へ行ってみたい気がします。

ところで冒頭のお客様の戻していかれた本は一冊200円。100円なら買うおつもりだったのでしょうか。

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2010年02月27日

雨に気づかない

夜来風雨の声、だったらしい。例によって良く眠っていて気がつきませんでした。

雨は昼頃までにはあがり、入れ替わるように気温が下がってきました。この数日が高すぎたので、普通に戻るのでしょう。日差しはないものの、もう雨の方は大丈夫だろうと表の棚を広げました。

穏やかに土曜の午後が過ぎ、デスクワークもはかどり始めた頃、ふと眼を外に向けると傘の影。

そのまま目を凝らしていると、数人が何事もなさそうに通り過ぎて行きます。錯覚だったろうかとなおも見ていると、また傘を差した人が。

慌てて表に出ると、路面が濡れています。急いで本を仕舞おうとした時、それまで外にいらしたお客様が本を数冊手にして、店内に向かわれました。帳場の机に本を置いて、お勘定をお待ちになっています。

すぐに戻ってお会計。お見送りするように後ろについて外へ出て、雨のかかった本を片付けました。

さいわいパラついている程度でしたから、軽く拭いて、特に被害はなし。改めて帳場に戻り、昨日届いた「2010年 国際稀覯本フェア」のカタログを手に取ります。

参加業者のお一人が送ってくださったもので、これからしばし眼の保養をさせていただくつもり。その感想やらなにやらは、明日にでもお伝えしたいと思います。

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2010年02月26日

市場の社会性

午後10時40分、店に戻りました。

今日の明古は特選市で、出品量も多く、市場が終了したのは午後5時前。それから会議です。

7月の七夕大入札会に向けての準備を始めなければなりません。先週その組織作りが固まり、早速第一回目の打ち合わせとなったわけです。

責任者の立場となる会員からは、現在の景況と、幾つかの不利な情勢から、ここは一つ新機軸で乗り切ろうとの提案がありましたが、実際の業務を担当する若手を中心に慎重論。

こんな時期だからこそ会員の負担を増やさず、これまで作り上げた路線でという意見が最後には大勢となりました。

結論だけ見れば過去の踏襲ですが、意見を交わしあった結果です。会議を終えると8時を回っていました。

その後、すずらん通りの中華店で食事、参加者8名。終えて外へ出ると雨は小止みになっていました。

さて長崎からの数百箱、売上額は1箱にならすと5000円にも届かなかったようです。一方で、今日の最終台、最高価格は一点百万円超。その点から見ると荷主さんにとっても、会にとっても効率の悪い、非経済的な一口でした。

しかし一点物は売った人、買った人、一人ずつにしか利益をもたらしません。それに比べればこちらは多くの業者が買い、その先にはさらに多くのお客様がいるはずです。

市場の社会性という点では、こうした割に合わない仕事も、大切な役割を果たしているというべきでしょう。


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2010年02月25日

長崎からの一口物

今日と明日は東京大学の入学試験。覚悟はしておりましたが閑散としたものです。

お天気は異様なほどの暖かさ。午後、出かけることになって、着て行くものに困りました。朝方着て来た服では、汗ばんでしまいます。

薄いシャツに着替え、念のためにセーターを一枚持って、それで充分。街中にはダウンジャケットの姿も多く、急な気温上昇に心構えが追いつかないという様子でした。

明日の明古に大口の地方荷が入り、前日仕分けに出かけたのです。係りは気を使ってくれて、集合の声はかからなかったのですが、こちらから連絡し一応顔を出すことにしました。

四階の会場を埋めつくして作業が始まっています。長崎から送られてきたという本の内容は、学者さんという触れ込みの割には専門書が多くありません。

作業を進めるうちに、旧蔵者が分かりました。即売展に注文して入手された本が多くあり、そうした本に挟み込まれていた抽選用紙に、お名前が書かれてあったのです。

店主が以前、即売展に参加していた頃にも、良くお見かけしたお名前です。確かに学者さんですが、退職後、郷里に戻り、いわば趣味として郷土研究に手を染められたようです。

昨年末、90歳でお亡くなりになっていたことを知りました。おそらくこれらの本は、引退後のおよそ20年ほどで買い集められたものだったのでしょう。

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2010年02月24日

一年前の宅買い

これは忘れっぽいで済む話とは違います。下手をすると、いや下手をしなくとも信用問題。

随分前に宅買いに伺った先から、「あれは結局どうなりましたか」というお問い合わせをいただきました。もちろんお伺いしたことは覚えております。しかしいつ、どんな本をお引取りして、その後どのような処理をしたか、皆目思い出せません。

買取帳や通帳などを調べても、確かに出金の記録はないので、お題をお支払いしていないことも間違いありません。さて何故こんなことになったのか。

大変焦りました。何か思い出すよすがはないものか。藁をもつかむ思いで、市場の記録を辿ることにしました。

確か寒かった時分だというぼんやりした記憶のまま、一年前の売り上げ伝票から調べ始めると、なんと一発で見つかりました。昨年の1月30日の明治古典会です。

その伝票に記載された品名を見た途端に、一気にいろいろと思い出しました。

ご主人の読まれた翻訳推理、冒険小説の単行本、文庫が大量にあり、古い「こどものとも」と絵はがき、それに黒っぽい本が少しばかり。前段は値がつかないので、後段を市場に出してみましょう、というお話をしたのでした。

その後、どういう経過があってこれを失念したのか、その点は依然として不明。失態であることは変わりませんが、お支払いの根拠が見つかったことに、ひとまず胸を撫で下ろしたのです。

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2010年02月23日

買うには片づけ

洋書会も、今年に入って一番の出品量。明日の資料会も一口が入っているようですし、明治古典会も次回また、大量出品予定の連絡がありました。

これから年度末にかけて、いよいよ人が動き、本も動く季節に入ったのでしょうか。

入札の際、一番必要なのはその本に関する知識であることは言うまでもありません。しかしそこで差がつかない時、次に物を言うのは何か。

一点物(この場合単独で出品されているという程度の意味です)では資力、本口や山物(つまりまとめて出品されているもの)では気力と体力でしょう。

資力については、自慢ではありませんが太刀打ちする自信はありません。では気力、体力はというと、これもこのところ萎え気味です。

どこが痛いの悪いのという話は、なるべくしないように心がけておりますが、いずれも年相応。あちこちにガタがきていることは否応なしに自覚させられています。で、つい大きな山を見るとひるんでしまう。

そんな状態で入れる札で落ちてくるほど、市場は甘くありません。まあしかしそれも知識不足をごまかす言い訳でしょうか。

というわけで本日の洋書会は収穫なし。帰って店の本の整理です。まずこっちを片づけなければ、たとえ落札しても今度は収める場所に困るのですから。気力、体力以上に必要なのはスペースだったりして。

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2010年02月22日

鶴見さん

昨日買い入れた本の中に『鶴見俊輔:KAWADE道の手帖』(河出書房新社2008年)があって、中井久夫氏との対談が収録されていました。

読み始めると面白い。さして長いものではありませんが、読み耽っていたのでは仕事になりませんから、持ち帰って家で読みました。

対談といっても、鶴見さんがほとんど一人で思いつくままに喋っているという感じ。融通無碍。去年、店主の尊敬する先輩が何冊目かの本を出したのですが、その出版記念会で会った編集者も、そんな風に話す方だと言っておられました。

しかしこのどこから飛んでくるか分からない球を、中井氏がまた見事に打ち返します。一言で言えば記憶の鶴見vs学識の中井。もちろん鶴見さんに学識がないという意味ではありません。

先輩の話を持ち出したのは、その先輩が学生時代、親しくその謦咳に接して以来、鶴見さんを深く敬愛されているからです。

店主が学生となった時は、すでに鶴見さんの担当授業はなく、どころか間もなくすべての授業がなくなり、やがて職を辞してしまわれましたので、講義を受ける機会はありませんでした。

余談ですが鶴見さんはこれまでに何度か蔵書を処分されていて、小店にも何冊か横文字の署名が書かれた旧蔵書があるはずです。

さらに余談ながら、読み終えて、この対談の行われたのが「梁山泊」とあるのに気がつきました。この店も、また懐かしい場所です。加藤周一に関する記事で「静」の名を見たときと同様、ふと遠い記憶がよみがえりました。

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2010年02月21日

戯曲『わが町』

数日前、「ワイルダーの本はありますか」と聞かれました。同じ日か翌日か、別のお客様から「ワイルダーの戯曲は何かありますか」と尋ねられました。

そして今日、お勘定を済まされたお客様から「ワイルダーの『わが町』は置いてませんか」と質問を受けました。

Thornton Wilderは、アメリカ演劇においては充分著名な存在ですが、我が国でそれほど知られているとも思われない作家で、実際、翻訳書もそれほど多くは出ていません。

好奇心に駆られ、思わずお尋ねしてしまいました。何かわけあってお探しなのかと。

気軽にお答えいただいて理由が分かりました。来年、新国立劇場でこの芝居の上演予定があり、そのオーディションが近くあるのだそうです。

早速、新国のHPを見てみると、2月15日付でニュースアーカイブに募集要項が出ていました。確かにヒロインと脇役若干名を募集していて、対象は男女とも18歳以上29歳以下。

なるほどそういえば、お尋ねになったのは皆さん若い方ばかり。これで合点がいきました。

ところで日ごろから小店のお客様には、芝居をこころざす若者も案外多いようです。近くにアゴラ劇場があるおかげでしょうか。もちろんだからといって演劇書が売れるわけではないことは、すでに思い知っております。

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2010年02月20日

I am sixty.

地口のように口を衝いて出たこのフレーズは、もちろんRodgers & Hammersteinによる、かの"Sound of Music"の一曲からの借り物。

この映画が日本で公開された年、同学年の数人で連れ立って見に行ったことを覚えています。ちょうどSixteenを迎えるか迎えたかという同級の女子生徒たちにとって、この曲は最も感情移入できるものだったでしょう。

しかし晩熟で世間知らずの高校一年生には、あの長女が随分と大人に見えたものでした。(ちなみに、後にヴィデオなどで見返すことがあっても、彼女はやはり年よりは落ち着いて見えます。その相手役は見るたびに幼くなっていくのに)

ついでに昔話をすると、ビートルズの来日がその翌年。チケットを手に入れたクラスの女子一名、学校を休んで上京しました。

ポールがWhen I'm Sixty-fourを歌ったのは、さらにその次の年のアルバムの中でです。

この歌を、見よう見まねでギターをかき鳴らしながら、仲間と声を張り上げて歌っていた頃は、そこに歌われる日々が来ることは、想像もつかないほど遥かな先に思えました。

16から60へ、今振り返ると束の間でしかありません。四年先に今日を振り返っても、やはり束の間でしょう。しかしその束の間は眼を凝らしさえすれば、無限にも思えるほど広がりを見せてくれます。

人生とは後ろ向きに歩くことだと言った詩人もおりました。齢を重ねることは、悪いことではありません。

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2010年02月19日

ある店仕舞い

昨日お先に失礼した、せめてものお詫びに、今朝は僅かばかり早めに市場へ行きました。

もちろん同僚は既に早くから集まって仕事を始めていて、重役出勤であることに変わりはありません。本を縛ったり、掃除をしたり、できる限りのお手伝いをいたしました。

若手の会員も手伝いに入り、総がかりで12時前には何とか開場にこぎつけることが出来、現場責任者もほっと一息。出品点数も1200点を超え、ひさびさに賑やかな市です。

その賑わいに最も貢献したのは、ある書店の店仕舞いに伴う倉庫整理品。何しろカーゴ19台。といってもカーゴテナーをご存じない方のために、大雑把に説明すればざっと1万冊。

繁華な商店街で60年ほどの店舗営業歴を持つ店ですから、その在庫も種々雑多。玉石混交とはこのことです。閉めると決めてから徐々に整理を進めてきた最終段階なので、石が多いのはやむを得ません、むしろ玉が混じっているだけでも大したもの。

顧客に著名人も多く、過去にはさまざまな珍本、稀本の買入れがあり、市場に出品しては話題を提供した店でもあります。とりわけ金子光晴とは縁の深い店でした。今日の最終台にも書店主宛の毛筆署名が入った『こがね蟲』が載せられていました。

自分が店を閉めた時、どれだけの本が残っているか。そう考えて、一つ小さなため息をつきました。



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