2012年05月

2012年05月31日

価値のある本

先の洋書会大市に、とても状態の良い「ケルムスコット・プレス=Kelmscott Press」のヴェラム装丁本が、二点出品されていました。

ある書誌学者、それも英国の初期刊本あたりがご専門の方の蔵書らしく、同時に書誌関係の専門書も、大量に出ておりました。全部で20点ほどに分けられていたでしょうか、そのうちの一部を小店も落札しております。

それをようやく整理し始めて、いくつか感じることがありました。ひとつは20世紀半ば頃までの研究書は、書誌学の本に相応しく、味わいのある装丁の本が多いのに、時代が下るほど機械製本のお粗末なものばかりになってきたということ。

もうひとつは、英国書誌学などというものをご専門にされる研究者がおられたのかという、今更ながらの驚き。外国人が、古活字版の研究をされるようなものでしょう。不思議ではありませんが、驚きではあります。

たださえ書誌学と言うと、重箱の隅をほじくるような仕事に思えるのですが、その重箱が、遠い国のはるか昔のもの。それを倦まず弛まず続けられたわけです。ある意味では、とても学者らしい感じもいたしますが。

さらにもうひとつ、それらの研究書を全部まとめても(数百冊はあったはずですが)ケルムスコット版2点の金額と、おっつかっつということ。研究書購入に要した費用は、ケルムス購入費用の少なくとも10倍以上だったはずです。

つまり、一方は購入価格と変らないか、むしろそれ以上の金額になったのに対し、他方は購入価格の何十分の一であったろうということ。

CA3K0263しかし、ここから単純に、高価な本を買っておけば値が下がらない、という結論にならないことは言うまでもありません。一時期人気を博した挿絵本の中には、それこそ10分の一以下の値しかつかないものもあります。

それではどんな本が、今後も価値を持ち続けるのでしょうか。ひとことで言えたとしても、ここで申し上げるはずもありません。

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2012年05月30日

不思議な懐かしさ

敬愛するY先生から、本をお贈りいただきました。

『小原鉄心「亦奇録」現代語版』(鉄心会発行、平成24年)B6判並製131頁、小ぶりでシンプルな装丁。幕末の大垣藩士が残した旅日記を現代語に訳し、注を付けられたものです。

小店にとって由良先生と並び、恩人というべき先生のお一人。そういえば由良先生もY。あともうお一方、やはりYで始まる、ご恩のある先生がおられます。それはともかく――

CA3K0258この旅日記、慶応二年(1866年)大垣から江戸への上編、江戸滞在記の中篇、藩主が幕命により京に向かうことになり、お供として急遽戻ることになった下編の三篇からなります。

いただいて、まだ読み始めたところですが、とても読みやすく、さすがはY先生と感服。楽しんでなされたお作であることが、よく伝わってきました。

ところでその冒頭のところ、すなわち「暁に城門を出」て名古屋へ向かい、その夜に宮(熱田)の「城州楼」で宴席に招かれる、というくだりに、いきなり感動を覚えたのです。

城北の龍ノ口から舟で堀川を下るところから、訳文を引用させていただきます。

すでに日は落ちて暗く、穏やかな河の流れは空と溶け合い、はてしなく拡がっている。左側に目をやれば、紅燈がびっしり列をなして波に影を落している。宮駅の妓楼である。南京の秦准呉江(しんわいごこう)は、こんな感じかと思ってみる。

店主の生まれ育ったのは、まさにこの近隣。幼い頃、近所に元治元年生まれという古老がいたことを思い出しました。賑わいの名残を見知っていたかもしれません。

見たこともないふるさとの景観に、懐かしさを覚えた、というのも妙でしょうか。

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2012年05月29日

ある閉店

今朝、机の上を整理していて、一通の葉書に気付きました。いつ届いていたのか、消印が不鮮明ではっきりしませんが、それほど前のはずはありません。

その文面によれば、「古書肆K堂は、平成24年4月30日をもちまして、閉店することといたしました」とあります。おそらく閉店後一段落してから、お客様などにお知らせした葉書を使って、知らせてくれたのでしょう。

同じデパート即売展に参加していた時期があり、隣県の古書組合理事長をされた折に、全古書連の会議などで顔をあわせたりというお付き合いでした。しかし、年が近いことと、独立開業組だということで、親近感はお互いに持っていたと思います。

今度の葉書で、独立の時期もほぼ同じ頃だったと知りました。昭和57年7月、小店より8ヶ月ほど早い。以来、約30年、閉店に至った理由については何も触れられていません。

「古書業界はこれからも厳しい時代が続くかとおもいますが、みなさまの益々の発展と健康をお祈り申し上げます」と結ばれているのみ。

理事長時代には、同県組合が主催する交換会の出来高低下のため、長い間使ってきた会場を明け渡すという、辛い経験もされました。

CA3K0248ご自身の店は、基本図書の豊富な品揃えで、県下でも有数の規模を誇った時期もあります。デパート展や、各地の即売展、後に神田の即売展にも参加されたりして、積極的な姿と伺えたのは、店売りの低迷を補うための努力だったのでしょうか。

いずれにせよ、店主などよりずっと働き者で、やり手ですから、やるだけやって、さっさと見切りをつけたということかもしれません。

最後に句が添えられていました。

初蝶やあつけらかんと決意なる

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2012年05月28日

困難な職業

CA3K0250本をお売りいただいたときは、買受確認票というものに、ご自身で記入していただくことになっております。古物営業法が定める身元確認方法です。

その記入欄には、氏名、住所、職業、年齢という欄があり、それがいわば必須項目。女性に年齢は、無理強いしにくいのですが、無粋な法律のことと、出来る限りお願いしております。

先日、男性が「職業、書きますか?」とお尋ねになりました。「どんなお仕事ですか」と伺うと、ためらいがちに「画家です、教えに行ったりもしているのですが」。

書きにくいという気持ちは、お察しできますが、余り厳密にお考えにならずとも良いのです。会社員、自営業、主婦、さらには無職だって通るのですから。

古物営業法による身元確認の主旨は、平たく言えば故買(盗品買受)の防止。万一の場合、追跡できること。お住まいがはっきりしていれば、本来それだけで充分なところです。

こんな話をするつもりではありませんでした。片付け物をしていて出てきた、一冊の、自費出版のような絵本が発端。

あまり売れそうもないなと、奥付を見ていくうち、作者が、店主と同じ大学、同じ学部、しかも同じ入学年であることが分かったのです。それどころか、総勢70名の、専攻クラスまで同じ。

本名が記されていましたが、それを見ても何も思い出しません。絵本の刊行年は1978年。その後が気になって、ネットで検索して見ました。すると、現在も画業を続けているらしい。

しかし同級生というだけで(思い出せもしないのに)、遠慮なく言わせて貰うと、とてもそれだけでやっていけているようには見えません。「画家」という職業を成立させるのは、素人が考えても困難なことです。

いやいや、古本屋という職業を成立させるのだって、大変困難。それを言いたかったのでした。

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2012年05月27日

「記念」の一冊

先日、大船へ宅買いに行った折、併せてクラシックのCD200枚ばかりを引き取ってまいりました。

その時は、そのまま市場に出すつもりでおりましたが、眺めているうちに店で売ってみようかという気にもなり、まだ処置を決めかねております。

CA3K0252市場には時々、CD類も出品され、案外良い値で売買されています。といっても、数をまとめて取引されるからで、1枚あたりにすれば、それほどのこともありません。

売値にしたって1枚300円から、せいぜい1000円程度でしょうから、人気のある文庫本と同じようなレベル。

本と違って傷む心配はないのが利点ですが、棚に並べようとするなら、実はこの程度の量では頼りない。セール品として一時的に店頭にでも並べ、ある程度売れたら、それから市場に出す。そんな方法もあります。

CDが市場で、割合良い値で取引されるのは、音楽好きの業者が自分用に買っているからだという説があります。買って、ダウンロードして、また売りに出す。

考えてみれば、お客様だって同じことをされるている筈。となるとこの先、CDの需給状況は、どう変化していくのでしょう――。などと、本の未来さえ予測がつかないのに、CDのことまで心配している場合ではありませんが。

そんなことを考えていると、お客様が『響きと鏡』(吉田秀和、文藝春秋、1980年)を、帳場にお持ちになりました。

「ああ、亡くなられたんですねえ」「記念に買っておこうと思って」

吉田秀和逝去の報は、昼過ぎに娘が、ネット上にニュースが出ているといって、知らせてくれたのでした。

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2012年05月26日

リトル・スティーヴィー・ワンダー

『人を動かす』(D.カーネギー)を拾い読みした話の続きです。

白状しますと、長い間、本書を「松下幸之助語録」(というタイトルの本はありませんが)のようなものだと思っておりました。それはあの「カーネギー・ホール」のアンドルー・カーネギーと、著者とを混同していたからです。

あとがきを読んで、その誤りに気づきました。

もうひとつ知ったこと。第一部・第二章「重要感を持たせる」で紹介されているエピソード。「心からの賞賛で一人の人生が変わる話」から。

何年も前、デトロイトのある学校の女先生が、授業中に逃げた実験用のねずみを、スティーヴィー・モリスという少年に頼んで、探し出してもらった。この先生がスティーヴィーにそれを頼んだのは、彼は、目は不自由だが、その代わりにすばらしく鋭敏な耳を天から与えられていることを知っていたからである。すばらしい耳の持ち主だと認められたのは、スティーヴィーとしては生まれて初めてのことだった。スティーヴィーの言によれば、実にその時――自分の持つ能力を先生が認めてくれたその時に、新しい人生が始まった。それ以来、彼は、天から与えられたすばらしい聴力を生かして、ついには「スティーヴィー・ワンダー」の名で一九七〇年代の有数のポップ・シンガー、ソングライターとなったのである。(山口博・訳)

知ったのは、スティーヴィー・ワンダー誕生譚ではなく、この本が原著者の死(1955年)後も、カーネギー財団によって改訂、出版されていたという事実です。

CA3K0246前にも申しましたが、本書は精神修養を説く本ではなく、あくまで実用書。本書自体が「人を動かす」ことを目的としており、そこで時代に合わせた書き替えが行われたというわけです。

その書き替えすら、すでに古めかしい感じとなっているのは否めません。いずれは実用性よりも、歴史的資料として意味を持つようになるのでしょう。

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2012年05月25日

我れながら予測がつかない

CA3K0245近いうちに、倉庫を空ける必要が出てきました。倉庫と言っても、我が家の小さな別棟です。かれこれ15年ばかり、倉庫代わりに使ってきました。

大して広くはないのですが、いつの間にか本が部屋の中にびっしりと積み上げられていて、いざこれを片付けるとなると大仕事。求められている期限は、3週間ばかり先。

日頃整理もせず放置してきましたから、どこからどう手をつけるか、途方に暮れているところです。

古本屋の倉庫などというものは、よほどの例外を除いて、思うように換金できるものは、まず入っていません。店に出して売れるもの、市場で良い値になるようなものは、とうに出払っています。

一方で、迷いなく捨てられるような本なら、さっさと処分しています。残るのは、必然的に、捨てるには惜しいが、簡単には売りさばけないものということになります。

例えば市場に出すとすると、その売上で、運搬その他の費用がでるかどうか。ちょうど地下資源の発掘のようなもので、採掘し、精製するのにかかる費用と、商品価格との見合いを計らなければなりません。

なまじ家賃のかからない物置があったことが、かえってアダとなりました。まあその程度のものなら、目をつぶって捨ててしまうのが、合理的な解決法だともいえます。

しかし、改めてひっくり返してみると、そう簡単には割り切れません。日頃それほど意識しない、使命感のようなものまで湧いてきて、何とか生かす道を考えようと、とつおいつしております。

その間にも、時は過ぎ、あっという間にその日はやって来ることでしょう。果たして、どんな結末になっていることやら。

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2012年05月24日

「人の立場に身を置く」

朝から良いお天気なのに、相変わらずポツリ、ポツリと思い出したようにお客様。明日が案じられるばかり。

やがてお一人、7、8冊の本を抱えて帳場へいらっしゃって、「請求書払いは可能ですか?」とお尋ねになります。公費扱いのことでしょう。「承っております」とお応えしました。

それじゃあということでお預かりしたのは、単行本3冊、あとは文庫新書。1冊300円という本も何冊か。しかし、ありがたくお受けして、書類を作り始めました。

CA3K0249300円の本は、さすがに在庫データを登録してありませんので、一々打ち込むことになり、多少時間が必要です。書類を作っていると、その間にも一冊、また一冊と追加をお持ちになりました。結局、最終的には当初の三倍ほどの量と金額。

総額でも、驚くような金額ではありませんでしたが、本日の貴重な売上です。これも、厭わず書類をお作りしたからこそ。

実は今朝、手元にあったカーネギー『人を動かす』(創元社、第二版)を拾い読みしたばかり。直接、この件に関わるようなことが書かれていたわけではありませんが、寛い心を持つことが肝心であると思わされたのでした。

日本的な修養書のように捉えがちですが、本書は歴とした実用書。そのことは原題からも明らかです。
How to Win Friends and Influence People.

もっとも成功したハウツー本の一つでしょう。店主にさえ、その霊験があらたかであったのですから、1938年に初版が出て以来、未だに新刊が出版されているのも、むべなるかなです。

ところでwin friendsは、友に勝つのではなく、友を勝ち取るということなのですね。「友をつくり人を動かす」これを英語に直しなさいといわれて、winはなかなか出ませんね。

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2012年05月23日

パンク修理

二日前のことですが、店に着いて車を入れているとき、ふと右後輪のタイヤがおかしいのに気がつきました。はっきりとひしゃげています。

その前日、走っている最中、かすかな異音があるのに気づき、車を止めて前後のタイヤを確かめたりもしました。しかし、その時は何も見つけられませんでした。

今時のタイヤは、急には空気が抜けないようです。今度は、ひしゃげたタイヤから、釘の頭らしいものが顔を出しているのが見えました。手で抜こうとしたくらいでは、びくともしません。

すぐ出かけなければならない日です。車は使いませんが。しばし考えて、ディーラーに電話を入れました。すると、パンクしたタイヤを引き取って修理しておいてくれるといいます。スペアタイヤに交換する作業も、やってくれるというのです。

ありがたくお願いし、今日、そのディーラーまで出向き、直ったタイヤを取り付けてもらいました。おそるおそる受け取った請求書には、パンク修理代約3千円が書かれているだけ。

時間があったら、果たして自分でタイヤを取り替えたでしょうか。しかし仮にそうして、持って行って修理を頼んだとしても、同じ料金のはず。そう考えると、現金で支払いながら、申し訳ない気分になりました。

二日前は、暑い日。昨日は雨で、寒いほど。今日はまた日が差して、暑さが戻り、人間も大変ですが、出始めた蚊も忙しいことでしょう。この数日、帳場にまで飛来してくるようになりました。

店番をしていると、「あ、刺された」と表で子連れのお母さん。今年もそんな季節になったわけです。いつだったCA3K0235か、やはり表で話す人の声が「ここ蚊が多いんだよね」と言ったような気がしました。

蚊が多いのではなく、人が少ないのではないかと、そう思ったりもいたします。

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2012年05月22日

どこも事情は同じ

CA3K0220東京スカイツリーの開業と関係があるのかないのか、午前10時過ぎ渋谷駅の半蔵門線は遅れ気味。それとも降り出した雨と、肌寒さが原因でしょうか。

古書会館について、4階に上がると、ぐるりの壁面に積み上げられた本が、まず目に入りました。昨日の中央市会の買い上げ品です。まだ持ち帰っていない人の本で、所定の場所に降ろしきれず、そこに積まれたままになっているのです。

洋書会の運営には邪魔になりますが、年に何度かは、こんなこともあります。相身互いということで、当番会員は粛々と会の仕事をしていました。

洋書会への出品も、今日はいつもより多め。カーゴ3〜4台という口が三件ばかり。他にこまごまとしたものもあって、会場の陳列台は全て埋まりました。

三件の中には日本書も結構混じっていたのですが、このお天気のせいか、あるいは昨日の今日で満腹気味なのか、来場者は少な目の感じ。落札価格も低めだったように思えます。3階と地階では古典会が「皐月祭り」。こちらも量が多かったことも影響したでしょうか。

満腹といえば洋書会員も同様で、大量の本を捌く方も買う方も、一番頭を悩ましているのはその置き場所。店主などもまさにその口で、腰が痛いこともありましたが、まず場所を空けてからと、今日は指を加えてじっと我慢の子でした。

場所を空けるには、ともかく買い入れた本に値をつけて、それなりの本はデータ入力もしなくてはなりません。中世演劇関係も、まだやりかけ。トーマス・マン関係書が大量に入り、書誌関係も数十冊単位で控えています。

今週は、金曜日の明古以外に出かける予定はないはず。明日から気合を入れて仕事。いつも掛け声倒れに終わるのですが、ここは一番、やるしかありません。

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12月31日から1月3日まで
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