2014年02月

2014年02月18日

「日和下駄」

荷風の文章に、肌の合わなさを感じながらも、つい引き込まれて読んでしまうのは、そこに描かれている光景に、懐かしいものを感じることがあるからです。

もちろん店主の知っている光景とは、時代も違えば場所も違うのですが、とりわけ路地裏の貧しい家並みなどは、荷風の見ていたものと大して違わないものを見ているように思います。

ただし、「好んで日和下駄を曳摺」って出かけ、「昔ながらの貧しい渡世をしている年寄を見ると同情と悲哀とに加えてまた尊敬の念」を感じたりした荷風とは違い、店主の場合は、それが生活の場所でした。

もっとも、狭い路地の両側に家々が低い軒を並べる様が、子ども心にも貧しい町と映ったものですが、今にして思えば、店主の生家は、古いながらもしっかりした造りの二階家で、他の家々も、荷風からすれば、むしろ無趣味な小住宅に過ぎなかったかもしれません。

いずれにせよ、荷風の文で惹かれるのは、描かれた光景とともに風物。そこへ注がれる視線ではなく、それを表す言葉。それらは店主の幼少期には、まだ残っていたり、記憶として生きていたりしました。

そもそものタイトルである「日和下駄」からして、祖母や母が日常的に履いていたものです。「ひより」とつづめて呼び習わしていた声が聞こえてくるような気がします。

もうひとつ、「煙筒」。煙突と同義でしょうが、いまではあまり使う人はいません。そもそも煙突自体が街中では、あまり目立たなくなってきました。

これも、祖母が「えんとお」と言ったり、時に「えんと」と言ったりするのを、長い間、無学なための訛語であるかのように思いなしておりました。

RIMG0922祖母から聞いた、方言や訛りとばかり思っていた幾つもの言葉が、案外に由緒正しいものであったことを知るたびに、含羞とともに、あるいとおしさを、遠い昔に対して感じるのです。

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2014年02月17日

雪も溶かす熱気

4日ぶりに車で出勤。

朝方は冷え込んで、路肩の雪は凍っていましたが、路面に雪の残るところはごくわずかでしたから、特に危険も無く、交通量が少なめだったこともあって、いつも通りに店につきました。

早々と店内の棚を外に出し、開店の準備だけしておいて、あとは店番に頼んで古書会館に。今日は中央市会の大市です。

例年、何かしらお付き合いで出品しているのですが、今年はどうも間が悪く、ついに出品ゼロ。せめて入札くらいはと、朝一番で出かけたわけでしたが、結果的に何も入れないまま、第一回目の開札が始まるより早く、会館を出て店に帰ってきました。

4階から3階、2階とおりて、地下の特選会場まで、いつもよりじっくりと見て回ったのに、ついに食指が動かなかったのです。

興味深い本は、いろいろと出ておりました。店に並べたいと思うような本も、なかったわけではありません。しかし、いま、ここで、どうしても札を入れたいという、強い思いが起きませんでした。

同じような状況でも、とりあえず札を入れる、ということだってあります。宝くじと同様、買わなければ当たらない、入れなければ落ちることはないからです。

RIMG0942しかし、それくらいなら、その前に店の不良在庫を整理した方が良いという、あまりにも冷静な判断に、今日は自ら従ってしまいました。

古本屋はそんなことではいけません。たとえ身動きできないほどの本の山に店が埋め尽くされていても、常に新しい仕入れを心がけるのが、あるべき姿です。

今朝の会館で、青梅の奥に事務所兼倉庫を構え、手広くネット販売をしている若手の本屋さんに会いました。

「よく出てこられたね」というと「歩いて1時間半かけて駅に出ました」との返事。すぐにまた本の山に向かい、熱心に入札を続けておられました。

あらためて会場を見渡せば、誰もが熱心さでは同じよう。一層肩身の狭い思いで、会場を後にした次第です。

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2014年02月16日

散歩日和

今朝も大事を取って、車は家に置いて店にきました。

それも昨日と違ってバスは動いているというのに、昨日同様、駒澤大学駅まで歩いて。

日曜日ということもあって、バスの本数が少ない。246が混んで、スムースに進まないかもしれない。などと考えたからでもありますが、何よりも、ほんの気まぐれ。

昨日の行き帰り歩いてみて、日ごろ思っているほどには遠くなかった感じがしたからです。

久しぶりに日差しがあって、お散歩日和にも思えました。

CA3K0759もう一つ、先日来読んでいる本にも、影響されたかもしれません。岩波文庫『荷風随筆集(上)』(1986年第1刷)の、「日和下駄」を読み始めたところです。

13、4歳の荷風は、麹町永田町の官舎から、神田錦町の私立英語学校へ「この道程もさほど遠いと思わず」通ったといいます。

爾来、店主は荷風の良い読者ではありませんでした。今回「日和下駄」を何十年ぶりかで読み直してみて、改めて肌の合わぬものを感じております。

それを詳しく語ると長くなりそうですから、いずれ折を見てといたしましょう。とはいえ歩くことの楽しみを説き、かつ実際に良く歩いていることには、感心いたします。

荷風に限らず、昔の人は皆そうであったわけですが。

というわけで歩いて駒澤大学へ、田園都市線で渋谷へ、井の頭線で駒場東大前駅へ。約40分、午前9時過ぎに店に着きました。

日中、日差しはたっぷりありましたが、風は冷たく、それほど散歩に出る人は多くなかったようです。まだ家の周りの雪掻きに、忙しかったのかもしれません。

帰りは渋谷から、バスで帰ろうと思います。

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2014年02月15日

ながぐつがない

庭一面を埋め尽くした雪を眺めて、さてどうしたものかと、思案を余儀なくさせられました。いつもの時間に起きて、朝食を済ませたものの。

お天気の方は、すでに雪が雨に変わり、吹き荒れるといわれた風もそれほどのことはなく、出かけようと思えば出かけられそうな状況です。

しかし娘がネットで調べたところ、田園都市線は走っているようですが、等々力から渋谷までのバスは運休。つまり渋谷に出ようとすれば、桜新町駅か、駒澤大学駅まで歩かねばなりません。

東急コーチに乗って自由が丘駅に出るという方法もあるのですが、こちらもバスは運休。そのうえ東横線が事故で不通。やはり最寄駅まで歩くしかなさそうです。

そこでしかし、一番の問題は、ゴム長がないことでした。確かにあったはずなのに、必要な時には、決まって見つかりません。

玄関先から一歩踏み出せば、湿った雪の中に踝まで沈み込み、普通の靴では数歩行く間に、水浸しになることは必定です。

RIMG0891何より、それだけの苦労をして店に行ったところで、お客様だってまだお出かけになれるような状態ではないでしょう。

ということで、しばらく自宅待機といたしました。

午前10時半、雨もどうやら上がった様子に、意を決して家を出ました。一番水に強そうな短靴をはいて。

作戦は、桜新町駅より僅かに遠いかもしれないけれど、足もとの良さそうな駒澤大学駅までの道を歩くというもの。

歩道は概ね踏み固められているか雪掻きされていて、多少歩きにくい程度のことでしたが、途中何か所かの小さな交差点が難所でした。あたかも西部劇に現れる川のよう。

轍に水がたまり、回り込むことも飛び越えることもできません。一番浅そうなところに、爪先立つように片足を降ろして踏み渡ること数度。駅に着くころには、靴下はすっかり水を吸って、歩くと音を立てそうでした。

という苦難を乗り越え、12時には店に到着。表の雪掻きをして、あとはおとなしく店番。文庫新書7冊、トーマス3輌、傘2本が売れました。

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2014年02月14日

雪にもマケズ

明日から、駒場の生協は、春休みの短縮営業に入るとか。

いつの間にやら学期末試験も終わり、これから四月中旬まで、学生さんは長い長い休暇に入ります。

RIMG0925昨日、さっぱり売り上げが伸びなかったのは、すでに学校の機関が春休みに入ってしまったからかもしれません。そこへきてこの雪です。明日もお天気は悪そう。

これでは日干し、ならぬ雪干し。いつもながら、開けさえすれば、まったくの売り上げゼロでないことが、救いですが。

ところで今日は、金曜日ですが明治古典会はお休み。来週の月曜日、中央市会の大市会が開かれるためです。

こんな日に、市場がなくて良かったと思う一方、準備の中央市会さんは、集荷に影響が出ているのではないかと、よそながら気がかりです。

そういえば、先週末も南部では、大雪の中、入札会があったのでした。店主は金曜日の夜、雪の来ないうちに入札に行ったのですが、当日の市場は大変だったことでしょう。

しかし何点か入札したうち、落札できたのは一点だけ。決してゲソッた(安い札を入れた)つもりはありません。どんなに悪天候でも、ふだんより安く買えるということはないと、経験的に承知しているからです。

以前、同じように大雪に見舞われた市に、チャンスと勇んで車を走らせ、途中で事故に遭ったという同業の話を、ご紹介したことはありましたでしょうか。

そのオチは、やっとの思いで市場に着いたら、普段より多いくらいの入札者の数に、がっかりしたというものでした。

その時分だって、寄ると触ると店が売れないと嘆いていたのですから、本屋というのは不思議な生き物です。

本日、午後6時、早じまいさせていただきました。

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2014年02月13日

キックオフ

『日本の古本屋』リニューアル会議の第一回目。

これから毎週木曜日の午前中に開く予定で、今日が開発業者さんとの顔合わせ。「キックオフ」だとか。今年の夏頃までには、新しいサイトの姿が見えてくるはずです。

この一仕事が終わったら、我々古書店主が、事業部員としてこのサイト運営のために割く時間は、かつてそうであったように、月一回の定例会議だけで済むようにならなければなりません。

ネットの進展に合わせて、より魅力のあるサイト、つまりもっと売れるサイトを作ることが一番の目的ではありますが、もう一つ重要な目的がそれです。

利用者およびデータ量の増加に伴って、いわば増築するような手当を続けているうち、運営管理に随分と手のかかるサイトに、なってきておりました。

その一方、全体の売上は、なかなか思うように伸びません。売上増加が大命題であるとすると、さらに抜本的な対策が必要だというのは、共通の認識でした。

この一、二年はその両面、つまり現サイトのケアと、新サイトの模索、検討とで『日本の古本屋』事業部はとても忙しいことになっていたわけです。

RIMG0907小店主は今年度、明治古典会の仕事もあるため、こちらの事業部における役割は、他の皆さんに比べて、軽いものにしていただいています。

今日も、午後に予定されていたもう一つの会議は、勝手を言って抜けさせてもらいました。しかしながら、この先しばらくは、会議の頻度がさらに増しそうです。

ここまで中心になって進めてこられた現在の役員さんたちは、どんなに大変だったかと思います。しかもまだ、ようやく業者さんが決まったという段階に過ぎません。

建築で言えば、これから設計図を引こうかという話。それでも確実に一歩、前に踏み出したという感慨は、深いものがあります。

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2014年02月12日

勧誘ではなさそう

表で何やら人声がして、ふと顔をあげました。

見ると本棚の前に若い女性が立っておられて、その女性に顔をつけるように近づいて、何やら話しかけている男性がいます。

女性は初めてお見かけする顔ですが、男性の方はそうではありません。名前こそ存じませんが、しばしばお見かけいたします。

30代にも見えるし、40代にも見えるのですが、その他にどこと言って、特に人と異なった様子はありません。しかし妙な性癖をお持ちで、若い女性とみると近づいて、突然話しかけるのです。

小店の前でも、隣のコンビニの前でも、しばしばその光景を目にいたします。相手を見つめ、しかし微妙に視線を外し、真剣な顔つきで、何やら尋ねているようです。

RIMG0906きっぱりした口調で、声も決して小さくないのですが、何を言っているのか、よく聞き取れません。

たまたま別の女性が来られたのに気づき、今度はそちらに話しかけようとしましたので、たまらず表に出て行くと、そ知らぬふりをして立ち去りました。

そこで、声を掛けられた女性に「何て言ってました?」とお尋ねすると、「突然でよく分からなかったのですが、フジテレビが何とかと言っていたような」。

くりっとした目で威圧感もなく、特に危害を加えることもなさそうですから、目くじらを立てる気はありません。しかし、店の前でやられるのは困りものです。気の弱い人でなくとも、驚くことは確かでしょう。

こちらから男性に近づけば、向うで避けてくれそうですから、先に気づいたらそうしようと思います。

そういえばずっと以前、某宗教団体が、店の前でしきりと勧誘活動をしていた時期がありました。最近さっぱり見かけませんが、ありがたいことです。

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2014年02月11日

The Pre-Raphaelite Brotherhood

「ラファエル前派展」開催の折から、ちょっとタイムリーな本。

The Popular Library of Artという、ロンドンはダックワース社から出された文庫本ほどの大きさの美術叢書があります。

このシリーズが全部で何冊あるのか、確かなことは分かりませんが、広告ページや、ジャケットの袖に印刷されたリストによる限り、21点が出版された模様。

そのうちの5、6冊が未整理の山から出てきて、値付けをすべく手に取ってみたところ、その中に Ford Madox Hueffer, The Pre-
Raphaelite Brotherhood.
があったという次第です。RIMG0895初版は1906年で、本書は1920年の重刷。

ちなみに本巻はこの叢書のなかでも Hogarth, Blake, Cruikshank, Rossetti などと並んで、人気の高い巻で、かつては英国の古書店などでも、それなりの価格で売られておりました。

別の時に手に入れたBlake(著者はあのG. K. Chesterton)には見返しに鉛筆で、18ポンドという値書きが残っています。

Ford Madox Hueffer は、もう一つの筆名 Ford Madox Ford の方がより知られている、作家にして出版人。業績としては、後者の方がはるかに大きいようです。

それ以上は Wikipedia の受け売りしかできませんから、詳しくはそちらで。

ところで、もうひとつ面白い発見がありました。

RIMG0896扉に押された巨大な蔵書印。この蔵書印が押された本は、ずいぶん前に市場で買った口です。汚れやイタミも目立つ、古い美術書の一山でした。

この印では見にくいですが、伊藤富士雄という名があり、それが山室軍平などと共に廃娼運動に尽力した宗教家のものであることは、以前に調べて知っておりました。

しかし今回、その名で検索をかけると、『薔薇族』初代編集長がそのお孫さんにあたるということが分かったのです。ブログを書いておられ、公式通販サイトなるものがあることも。

だからどうだということもありませんが。

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2014年02月10日

大人の読む本

雪の日のバスでの行き帰りもあって、しばらく読み継いできた『明治文壇回顧史』(後藤宙外 河出文庫 昭和31年)をついに読み終えました。

とても面白く読めましたが、これを若い頃読んでも、きっと面白くなかっただろうと感じたことは、過日、申し上げた通りです。

この本のどこが面白かったか、をお話することが、その理由を説明することになるかもしれません。

面白さの第一の点は、その名に親しみのある人物が多く登場することです。

RIMG0883経営員の時代から数えると、もう四半世紀以上、明治古典会に関わってきて、さしも不勉強な店主も明治期の文人、作家の名については、かなり耳にしてきております。紅葉、柳郎、緑雨、抱月…。

そうした聞き覚えある人物と著者との交友録は、ちょうどタレントのゴシップ記事を読むような興味を持って、読むことができます。

巻末の吉田精一の解説にもありましたが、基本的に後藤本人の体験談、あるいは自身の受け取った書簡の紹介という、「第一資料」が中心であることも、その面白さを倍加させています。

第二の点は、出てくる地名なども、今なら比較的耳なじみのあるものであること。同じことで、取り上げられる雑誌名についても、その多くは過去、市場で何度か目にしています。

いったいに固有名詞というものは、その示すものを知っているのといないのとで、そこから得られる感興は大きく異なるでしょう。

第三の点は、本書は著者がおよそ3〜40年前を振り返って、書かれたものであることで、これはやはり、同じくらいの過去を振り返ることができるだけの年になって、初めて共感できる部分というのもあるわけです。

世間を知らず、ものを知らない若者が、知識を得るために読んでも、面白い本だとは思えないことでしょう。

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2014年02月09日

雪解け

朝の7時過ぎ、雪道を踏みしめ踏みしめ、近くの中学校まで都知事選に一票を投じに。

そんな時間なのにもう、歩道の雪もシャーベット状になっていて、歩きにくいこと夥しい。これで、もう少し希望の持てる選挙であれば、などと考えると一層足が重くなります。

選挙会場に着いてから出てくるまで、投票者は店主一人。このまま誰も来なければ、店主の一票はすこぶる重いものになりますが、そんなわけはありませんね。

そこから桜新町駅まで歩く間は、それまでより一層、雪深い道。日ごろの運動不足の報いが、こういう時に出ます。ほとんど八甲田山気分。

RIMG0893ようやく駅について、渋谷経由、井の頭線で我が駒場東大前駅に着いたのは午前8時半頃。

お隣のセブンイレブンさんからスコップを借りて、先ず道路から店への通り道だけ確保。そうしておいて、店の棚を表に出して、開店の準備を始めました。

表の雪掻きを残しておいたのは、それが大好きな家人のためでしたが、ご近所さんが総出で、小店の前を含むあっちからこっちまで、お昼近くまでかけ、きれいに除雪してくださいました。

気温が上がったため、溶けるのも早く、夕方にはあちらこちらに小山のように寄せられた雪の塊が残っているくらい。路面には痕跡もありません。

20年ぶりとか、何年ぶりとか聞く大雪でしたが、あの、降った後何日も溶けずに難儀したのは、何年前のことだったでしょうか。

それに比べれば今回は、暮らしや商売への影響は、ずっと少なく済んだ気がします。

とりわけ不思議だったのは、雪が積もるほど降った翌朝には、必ず屋上から予告もなく落ちてくる雪の塊が、今朝は全くなかったことでした。

明日は車で来られそうです。

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