2014年04月

2014年04月30日

人の好き嫌い

RIMG1207「しかしこれだけ永くつきあってきながら、私はいまだにこの哲学者に対してアンビヴァレントな気持ちをもちつづけている。この人の著書や講義録は、読めば読むほどすごいと思い、嘆賞を禁じえないのだが、この人の人柄はどうしても好きになれないのだ。(中略)その人柄を知れば知るほど、私はこの人が嫌いになる」

これは木田元『ハイデガー拾い読み』(新潮文庫、平成24年)、読み始めるとすぐの、いわゆるツカミの部分。見事につかまれてしまいました。

まさにこの人間のアンビヴァレントな感情こそ、店主には常日頃関心のあるところです。

おりしも先日仕入れた本を整理していると、中に『わが久保田万太郎』(後藤杜三、青蛙房、昭和49年)がありました。

最近『引っ越し魔の調書』(青江舜二郎、私家版、昭60)という遺稿集が売れたのですが、そのなかの、久保田万太郎について書かれた文章を思い出したのです。

簡単に言えば、著者が長く恩義を受けた久保田に自作を盗用され、それに対して告訴に踏み切り、一応の勝訴と引き換えに、その後、業界から締め出しを食うことになった顛末と、しかしながら憎み嫌う気持ちにはなれないという心情を綴ったものでした。

ちなみに『わが久保田…』の方では、この一件を「ある年、新派が青江舜二郎原作の戯曲「一葉伝」を、久保田万太郎原作演出として上演したことがあった。万太郎の故意のしわざではなく、興行主たる松竹側の手落ちであったのだろうが、原作者との間に話し合いがつかず告訴沙汰にまで発展してしまった」(224頁)と触れています。

当然のことながら、青江自身の語るところとは、ずいぶん情況が違います。この文は、おそらく当人の眼にも触れているはずですから、複雑な思いがあったことでしょう。あるいは彼もまた久保田の「とりまき」の一人、と見なしたかもしれません。

それぞれに付きあいにくいところのありそうな久保田さんと青江さん。たとえば店主なら、どちらとウマがあったでしょうか。

それにしても、雨で上がったりの月末でした。

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2014年04月29日

ウルトラ怪獣

怪獣ネタが続いてナニですが、今朝少しばかり補充して、プラスチックケース二つ山盛りにいたしましたところ、続けざまに数体売れました。

さすがは休日、本のお客様より、むしろ表のオモチャに反応されるご家族連れが多いようです。

極めつけは、お昼過ぎに現れた40代とおぼしき男性。

ごっそりと抱えて帳場までお持ちになり、数えてみますと11体。いずれもユニークな形態のフィギュアばかり。

「選ぶ基準は何ですか?」と、つい伺ってしまいました。

「名前が分かるってことですかね。まあ、大体分かるんですが。まだ欲しいけど、あとはまた今度にしておきます」

そうしていただいて良かったかもしれません。かなり嵩張りますので、小店の紙袋では間に合わず、あれこれ探してようやく大きな袋を見つけ、それに収めてお渡ししました。

RIMG1202そういえば、昔、怪獣図鑑のようなものが、シリーズで出ていたのを思い出しました。中には結構な古書価が付いていたものもあった気がします。

今頃わかったのですが、どうやら小店で並べているのは、ウルトラマンシリーズの怪獣が中心らしく、長期にわたるこのシリーズを、それぞれ熱心にご覧になっていた時期の、懐かしい怪獣がおありなのかもしれません。

ちなみにヒーローたちは1体100円。造形的な面白みに欠けるという、独断的な判断によるのですが、この価格比で、売れ行きのバランスがちょうどいいのが面白いところです。

以前、このヒーローたちを、11体まとめてお買い上げになった年配のご婦人がおられました。全部種類が違うそうで、言われても店主には区別がつきませんでした。

「いいお土産が出来た」とお喜びでしたが、お孫さんにでしょうね。

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2014年04月28日

連休モード

ふだんあまり見かけない感じの若い男女数名が、店の前で盛り上がっています。

やがてその中の一人、髪を金色に染めた女の子が、怪獣のフィギュアを1体持って、店の中に入ってきました。

「300円でいいんですか?チョーお買い得。中野のブロードウェイあたりの店だと、プレミアがついてすごく高いのもあるんですよ」

これが本の話だったら、心中穏やかではありませんが、ジャンクグッズに関してならば、いたって冷静でいられます。

「そういうこともあるでしょうね」。余裕の応対を返しますと、喜んでお買い上げになり、外に出てから仲間とまた、その成果についてひとしきり盛り上がりつつ、去って行かれました。

大型連休に突入した、昨日の日曜日のことです。

RIMG1193今日もあまり平日らしくない、どこかのんびりした雰囲気は、やはり連休期間のせいでしょうか。

朝、若い女性の二人連れ。一瞬、昨日のお仲間かと思いましたが、何やら話しながら、やはりフィギュアに取り掛かりました。

ヒーローフィギュア3体、怪獣を1体お持ちになり、「うちの子が、このタコ怪獣が好きなの」と仰います。それで、ママであることが分かりました。しかし話し方といい、お見かけといい、昨日の女の子とさして変わりありません。

「気に入ったー、この店」――と、お連れに大声で話しかけながらお帰りになりました。

さて小店の本日は、昨日夕方にお持込いただいた段ボール6箱の買取品を、ひたすら整理。店の棚に挿すもの、表の均一に出すもの、資源ごみに出すものなどと分けて、一日が暮れてしまいました。

そのさなかにも「引っ越しのために本を整理しますので、二、三日うちに持ち込んでいいですか」というお尋ねが。連休は、こうした買入れが重なる時期です。整理のスピードを上げなければなりません。

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2014年04月27日

青年の日の面影

RIMG1167しばらく前から、中年の外国人男性がゆっくり棚をご覧になっているのには、気がついておりました。

ちょっと裏に本を取りに席を外し、戻ってくると、待ち受けるように帳場の前に立っておられて「河野さん、でいらっしゃいますね」と日本語で、確かめるように声を掛けられました。

驚いて見つめ返して、しかしすぐ、先方が名乗ろうとする前に、思い出しました。

「シカゴの…」そう口にしただけで、大きくうなずき、「お久しぶりです。その節は随分とお世話になりました」。

前の店の頃ですから、もう20年くらいにはなるでしょうか、当時は髪を長くのばして(とご自分でも説明されていましたが)まだ学生の雰囲気が残る青年でした。

60年代のアングラ演劇について、調べているということで、何冊かの本を買っていただいた記憶があります。とりわけConcerned theatre Japanの不揃い数冊を、とても喜んでいただきました。

お名前も、そう思い出しましたWilliam Marottiさん。やがて、母校のシカゴ大に帰ることになり、その折にも挨拶によってくださいました。

最近、単著をだされたとかで「あれが大変役に立ちました」と改めて礼を述べられます。

今回は、いくつかの大学へ特任講師として一ヶ月ほどの来日で、その合間を縫って顔を見せてくださったわけです。

「昨日は美学校で講演をしました。明日は一ツ橋です」

ちなみに近刊の書名は、Money, Trains, and Guillotines: Art
and Revolution in 1960s Japan
。Duke大学の出版。60年代日本の芸術と政治、そこに焦点を当てた内容のようです。

「翻訳は出ないのですか」と尋ねると、まんざらない話でもなさそうですので、楽しみに待ちたいと思います。英語で読むのはいささか辛いですから。

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2014年04月26日

提携の意味するもの

利益率か、売上高かということで、ずいぶん昔、ある同業と他愛もない意見を交わしたことがあります。

原価率40%の本を100万円売るのと、70%の本を200万円売るのとでは、どちらも60万円の実入りであるが、古本屋にとってどちらが商売になるだろうか。

単純な比較で済まないことは、言うまでもありません。ただもう少し説明を加えれば、古本の世界では、平均すると価格の高い本ほど、仕入れ原価率が高くなる傾向があります。

つまりこの話は、安く手に入りやすい本を大量に扱うか、手に入れにくい高価な本を扱うかという、本屋の姿勢についての問題だったわけです。

まだBookOffもAmazonも、現れる前の話でした。

その当時、大抵の古本屋は、まず安い本で利益を上げながら、徐々に高い本も扱える力を蓄えていく、というのが、その目指す方向だったと思います。

もちろん、その過程で、自分の力や向き不向きに気づき、それぞれの商売のバランスを作り上げておりました。

その後の本を巡る状況の変化は、まずこの安い本で利益を上げるという前提を、古本屋から奪う方向に進みました。利益が出ないとまでは申しません。その利益をもとに、次のステージに進むというほどの蓄えが出来なくなったのです。

それは、手に入りやすい安価な本を大量に売るという、そのことだけを目的として完結するビジネスモデルが成立するようになったからでした。安い本でも、利益率を下げて数を捌くことで、売上を伸ばしていくという。

それを多店舗化という形で展開してみせたのが、BookOffに他なりません。

RIMG1172そのBookOffがYahooと提携するという話を聞き、新本ばかりか、古本大量販売のビジネスモデルも、すでにネットの世界に移っていたのだと、今更ながらに痛感いたしました。

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2014年04月25日

喜ばしい結果

今朝、案の定予測した通り、いや実際にはそれ以上に遅れて古書会館に着きますと、一階の荷捌き上で、店主のもっとも古くからの知り合いである、K書店さんに会いました。

カーゴを押してエレベータに乗り込もうとするところです。一緒に乗り、上階に着くまでの間に、一言二言挨拶を交わしました。

店主からは先々週と、今週と、続けてカーゴ数台を明古に出品していただいている、そのお礼。先方からは、出品に際し、会に仕分けを依頼していることについての感謝。

近頃は手間をかけても、量の割に思うような値にならない、という互いの嘆きが、別れ際の言葉になったのでした。

ところが今回のKさんの出品のうち、昨日持ち込まれたカーゴ2台は、確かにその嘆き通りの結果になったのですが、今朝、店主と会う前にすでに運び上げられていたカーゴ1台。これが、今日の明治古典会で、一、二を争う話題の口となったのです。

RIMG1183それは本というより、古い書類、アルバム、手紙類といった、いわゆる生資料。古びたトランクに入ったままのものもあります。

店主は、迂闊にも開札が始まるまで、たいして気にも留めていなかったのですが、やがて札が開くと、何点か、とびぬけて高い値になるものが出て、俄然注目を集め始めました。

入札した人の一人に尋ねてみると、旧蔵者は明治期の、著名な工学系の学者であったということが分かりました。

自家目録による販売を主とする専門店が数件競り合い、この口はことごとく良い値で落札されていたようです。

古本屋が引き取って市場に出さなければ、そのまま紙屑として捨てられていたかもしれません。

それが救われる現場を目の当たりにできたこと。同時に古い付き合いのKさんが報われたこと。ふたつながら喜ばしい市会でありました。

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2014年04月24日

理想の古本屋

RIMG1165例えば毎週、月曜日から金曜日まで、場合によっては土曜日も開かれている市場へ、気が向けば毎日のように出かける。

ただし急ぐことはない、開札時間の午後一時半(洋書会は三時)に間に合うように出かけて、手早く、とはいえ見落としのないように注意して会場を回る。

気に入った出品物を見つけたら、それがよほど珍しいものでない限り、つとめて冷静な札を入れる。

翌日もまた行くわけだから、落札品はその時に取りまとめて、ルート便で運んでもらうように手配をすればよい。(ただし万一、紛失していたり、入れたはずのないものが落ちていたりしても自己責任)そしてまた、その日の市場もさっと一回りする。

用が済めばさっさと店に戻り、ひたすら店の棚を耕したり、入荷品を吟味したりして日を過ごす。

たまには気の合う同僚と市場を抜け出して昼食やら、お茶やらを共にし、お互いの近況を話したり、情報を交換したりする。

そんな日々が過ごせないものでしょうか。もちろんそれには、それだけしていれば、家賃を払って、一家が何とか食べられるという程度の売り上げがなければなりませんが。

現実はというと、今週は洋書会が当番でしたから、朝の10時には市場に行き、仕分けから陳列、開札から片付けまで行い、その間に入札と落札品の片づけ。

今日は『日本の古本屋』リニューアル会議と、定例会議で朝の10時から午後6時半まで会議室にこもりきり。

明日はまた明治古典会の幹事として午前9時半を目標に、店を出なければなりません。

しかも今日だって、最後までいられずに途中退席。明日も若手は午前9時から仕事をしているのに、結局10時前くらいに着くことになるでしょう。

あれこれ忙しい思いをしながら、その実、いずれもまともに参加できないという中途半端さ。店にいたっては、毎月その月の家賃を支払うのがやっとという有り様。

どうすれば、理想の姿に近づけるのでしょうか。

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2014年04月23日

別の楽しみ方

岩城宏之さんのファンで、と申しましても音楽の方ではなく、文章のファンです。

指揮についてはTVで二度か三度か見た(聞いた?)くらいですから、ファンだのなんだのという資格もありません。

しかし著作については、比較的良く読んできた方だと思います。しばらく前にも『森のうた』(朝日新聞社 1987年)が入ってきて、久しぶりに読み返したと、そのことはこのブログでもご紹介いたしました。

今回は『棒ふり旅がらす』(朝日文庫 1986年)が手に入り、これはまだ読んでいなかったので、楽しく読ませていただきました。

とりわけ店主が好きなのは、面白うてやがて哀しい、親友山本直純についての、愛情に満ち溢れた文章です。

この本の中には、一度しか、それもチラリとしか登場しないのですが、ナオズミという名を見るだけで、なぜか店主はジンときてしまいます。

RIMG1169読んでいるうち、全く別のことに気が付きました。一章ごとの末尾に付されている数字についてです。

この本は『週刊朝日』の連載をまとめたもので、数字はその掲載号の日付だと分かりましたが、それが1982年1月から一年半にわたってのことでした。

当然ながら、途中で1983年の3月を通過します。つまり小店の開業の時です。

それでこの本を読むのに、別の楽しみが加わりました。日付を見ながら、その頃、自分は何をしていたのだろうかと思いを馳せるのです。

もちろん思い出せることはごく限られています。それでも店舗物件を探し、見つけ、開業に至るまでの何やかやが、おぼろげながら甦るような気がいたしました。

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2014年04月22日

庭の本

一週お休みがありましたので、二週間ぶりの洋書会。

来週が祝日で、またお休みになりますから、四月はこれが最後。つまり今日は「うなぎの日」というわけです。

そうと決まっているのだから、もう少し早く頼めばよかったのでしょうが、仕事に一区切りついてお茶にしようとなってから注文したため、出前の時間が午後1時になると言われたそうです。

時計を見ると午前11時。パリ帰りの田村書店さんがお土産に買ってきてくださったお菓子をいただきながら、「豆工房」でポット買いしてきたコーヒー(これを運んでくださったのも田村さん)を皆で飲み、しばし休憩。

そのあと再び仕分け作業に入ったのですが、量が多い割に仕分けるものが少なく、お昼前には片付いてしまいました。うなぎの到着までが長かったこと。

その間にじっくり会場を見て回り、的を絞って入札。二点入れて、二点落札と言う、効率の良い結果となりました。

落としたのは、どちらも同じ口のもの。洋書日本書合わせて20箱ほどが、中東関係、庭園関係と分けて詰められていた口です。

その庭園関係の洋書(主にフランス語でした)を、ビジュアル書、ビジュアル的研究書、単行本研究書およびその他というように分け、同じく庭園関係の日本書200冊ほどを一点にまとめました。

RIMG1182そのうちのビジュアル的研究書たしか7冊と、日本書約200冊が、今日の成果です。

なぜこの二点にしか札を入れなかったのかと申しますと、現在の小店の在庫状況を睨んでのことでした。庭園関係の研究書に魅力がなかったわけではありませんが、量が多すぎます。

少し仕分けてみようとしたのですが、気になる本の何冊かに線引きが見つかり、結局まとめるしかありませんでした。仕入れたあとの手間暇も考え、入札をあきらめたという次第です。

日本書の方は、これに比べやや一般的な本が多く、店売り向きかと判断し、札を入れてみました。店頭に並ぶのは、今週末くらいからになるでしょうか。

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2014年04月21日

紙の本

朝刊の「国会図書館の蔵書を製本販売」という見出しが、目に飛び込んできました。「国会図書館の蔵書を「紙の本」にして売るサービスをアマゾンが始める」とあります。

記事を読むと「国立国会図書館の蔵書の電子化された画像データを印刷し、紙の本として販売する取り組みを始める」云々。

要するに国会図書館が2009年以来、著作権の切れた蔵書を徐々に電子化し、次々にホームページに公開してきた、それを商売に利用しようという話。国会図書館が見出しにされていますが、つまりはアマゾンの記事。

商売と言っても、同社にとっては取るに足りない規模の事業でしょうから、狙いはアナウンス効果。まんまと大新聞のニュースに取り上げられたというわけです。

実際、どこがやっても良かったわけですが、利益を出せる見込みは少ない。復刻本ブームの盛衰を顧みれば明らかです。利益も出ない代わりに、費用も同社にすれば大したものでない。その割には話題になる。

恩恵を受ける人もいるはずですから、ケチばかりをつけるつもりはありません。しかし古書業界にとっては、また一つ飯のタネが減るという感は否めないところです。

イメージ (151)ところで手元に、不思議なオンデマンド本(25cm,127p)がありました。何が不思議かと申しますと、奥付、いわゆる出版事項(publishing data)の表記がないのです。ISBNはあるのですが。

刊年がありません。版権表示がありません。出版社もありません。表紙の下部にあるとおり、Wikipediaからコピーし編集した本で、引用サイトのリストが巻末にありました。

イメージ (152)裏表紙と、標題裏に、高らかな宣言文が掲げられています。「世の中変わっても、昔ながらの〈本〉という形には、まだまだ役目がある」というわけです。

その〈本〉というのがBOD本ではちょっと寂しいですが、ここは目を瞑って、ひとまずエールを送りましょうか。

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