2014年06月

2014年06月30日

In Memoriam

RIMG1386前田愛旧蔵書を店に出しました。

表紙の汚れを拭き、三方のクスミに軽く紙やすりをかけ、多少とも身ぎれいにして、表の棚などに差しました。

並べると、やはりくすんだ感じが強いのは否めませんが、タイトルはいずれも、なるほどというものばかり。

しかし、After Babel とか Orientalism とかは、もともとヤケ易い紙でもあるため、すっかり茶色く変色しています。その他も大同小異。

これを、以前持っておられたのが、あの前田さんであると、仮に説明してみたところで、それだけで有難がって買っていただけるとは思えません。

それならば、中にしっかりと書入れがある場合はどうか。たとえば Landscapes of Fear とか、Culture and society のように。

書入れを読む楽しみというのは、読書家の中でも、相当達人の域に達していなければ覚束ない技です。たしか由良先生は、そのことを、どこかに書かれていたように記憶していますが。

そ知らぬふりをして、表の棚に紛れ込ませておくことにしましょうか。誰の書入れであるなどということも、もちろん記さずに。

そんな作業を続けていると、一冊の本から一枚のレターヘッドが出てきました。文面は手書き、宛名は書かれていません。読んでみると、前田夫人に送られたものであることが分かります。

内容は、その本を出すにあたって、「前田さんにdedicateすることにしました」というもの。

本のタイトルは Learning Places: The Afterlives of Area
Studies
. Duke Univ., 2002.

RIMG1388タイトルページをめくると、白いページの右上隅に、In Memoriam: Maeda Ai とだけ印刷されて、そこにこの手紙の書き手である Masao Miyoshi の署名。

その余白が、万感の思いを伝えているように映りました。

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2014年06月29日

洪水顛末記

何となく薄暗くなってきたと思ったら、遠くで雷鳴。それがだんだんに近づいてきたと思うと、俄かに激しい雨が降り出しました。

少し前からwebの雨雲レーダなどをチェックして、警戒態勢に入り、表の棚を奥に入れるなど、準備は整えていたつもりでした。

しかし人間の営みを嘲笑うように、猛烈な降りがしばらく続くと、表の棚は横殴りの雨でほとんどびしょ濡れ。

RIMG1388それがいくらか落ち着いてきたと思われたころ、表の道路がみるみる川となっていきました。上流から様々なものが流されてきます。

やがてその川幅が徐々に広がっていることに気が付きました。小店の前は少し勾配になっているのですが、そこを水が少しずつ上ってきます。

あれよあれよという間に、その舌のような先端が、店内に侵入し始めました。

ここに至ってようやく事の重大さに気づいた店の者一同、大慌てとなり、水を止められそうなものを手当たり次第に入り口に積んで、ドアを閉めました。

すでに店内には水が広がり始めています。小店は入り口こそ表と地続きですが、そこから一段下がって、奥のバックヤードまで同一面。つまり、その先まで水が入れば、あとはプールになるばかり。

あわや、というところで、奇跡的に水が引いていきました。しかし、僅かと思えた浸水も、あと始末となると結構大変。ニュースなどで見ているだけだった被災地の大変さが、いまさらながらに思いやられます。

そんなてんてこ舞いの最中、まだ床を拭くのに懸命になっているときに、ご来店になり、お買い上げいただくお客様がいらしたことに、ちょっと驚きました。

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2014年06月28日

梅雨の土曜日

電話で、「日本の古本屋」でご覧になったという、在庫のお問い合わせをいただきました。

「はい、確かにございます。どういたしましょうか」
「できれば送っていただきたいのですが」
「では、先にご送金いただけますか?」
「じつは、しばらく以前ですが、そちらで買わせてもらったことがあると思うのです。何年か前なので、記憶違いかもしれません、あるいはお店に伺ったのかも」
「はい」
「ふだん神保町とか、京都の書店さんでも買っていて、決して変なものじゃありません。振替用紙を入れて先に送っていただくわけには行きませんか」
「分かりました、それではFAXかメールでご注文書をいただけるでしょうか」
「そうですね、ではFAXします。そのほうが確かですからね」

間をおかずFAXが届きました。某書店目録に挟み込まれていた注文書をご利用になったようです。

お名前を小店のデータベースで調べてみましたが、お取引の記録はありませんでした。もちろん、だからと言って先送りを取りやめはしません。早速荷造りして、発送いたしました。

また今日は、10日ほど前にネットでご注文があり、続いて電話で「近いうちに取りに行くから」と、ご連絡をいただいていた本の、お引き取りもありました。

そのお客様、店に入って来られると、「ここはもう長いのですか」とのお尋ね。「前に一度来たことがあるような気がします」。「前」というのがいつ頃のことか、伺いそびれました。

午前中は本降りの雨、午後は梅雨らしい空模様。土曜日というのにご常連のお顔も見えません。

RIMG1345そんな中、お昼時に中国かららしい5人連れが、賑やかに現代思想関係の洋書を、皆さんそれぞれにお買い上げくださいました。

干天の慈雨。こんなお天気に、変な比喩ですが。

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2014年06月27日

打ち上げの焼き肉

帰りの電車が割合に空いていて、ホッとしました。店を出るときに一人ずつ、念入りにファブリーズをふりまかれたのではありますが、今度はその匂いが妙に鼻について。

明治古典会幹事としての市会は今日が最後。まだ七夕大市会というビッグイベントは残っていますが、ともかくも一年間のルーティン作業からは、これで解放されます。

その打ち上げとして、幹事、経営員総勢20名で、三番町の「巨牛荘」へ繰り出しました。知る人ぞ知る焼き肉店。知らない人は店主のようにまったく知りませんでしたから、まずその設備の旧式さに驚きました。

今時テーブルの上にコンロがあるような焼き肉店が、これほどの広さで、しかもこれほど盛況に営業を続けていたとは。決して便利とは言えない場所であるにも関わらず。

天井は低く、換気も決してよくなく、床と言わずテーブルや椅子と言わず、油でべとつくような感じ。いざ肉を焼き始めたら、立ち込める煙で向うの席が見えない――というのはオーバーにしても、隣席のタバコすら気にならないほどの匂いと煙です。

しかし、月末の金曜日であるとはいえ、広い店内は満卓。それだけの理由があるのでしょう。あまり食べ比べた経験のない店主ですから、味がどうという批評はできませんが、ボリュームが十分であることは確か。価格も良心的、だと思います。

5人に一台というコンロのおかげで、焼網までが遠い店主は、ただ紙のエプロンをかけて箸を片手に待ち、次々に小皿に載せられる肉を頬張るだけ。まるでお殿様のよう。

これで左手に持つグラスの中がウーロン茶でなければ、焼き肉の味も一段と美味しかったに違いありません。

RIMG1375乾杯のあいさつも、締めのあいさつも、渦巻く騒音のためロクにできませんでした。それで良かったのかもしれません、埒もない長話をすることも、聞かされることもなく済んだのですから。

あとはいよいよ七夕です。

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2014年06月26日

安くはない

RIMG1378不安定なお天気が災いしてか、このところ店売りがさっぱりです。安定していれば売れるのかと問われても困りますが。

そんなある日、「この本はいくらなの?どこに値段が付いてるの?」と表の本を持っていらっしゃったお客様。

函の背に値札が貼ってあるので、そう申し上げると「ああ、こんなところに。500円。安くはないですね」、にこやかな顔でそうおっしゃいます。思わず「えー!」と大声を上げてしまいました。

筑摩世界文学大系の『現代小説集』、函もカバーもついた決して状態も悪くない本です。

店主の反応に驚かれたのか、慌ててとりなすように「いや、本屋さんと喧嘩する気はありません。今は何でも安くなっているということです。これはいただきますから」。

お会計を済まされて、なお釈然としない思いでいる店主に「中も少し見させてもらっていいですか」とのお尋ね。もちろんどうぞごゆっくりとお返事。

やがて、フランス語のポケットブックを4冊ほどお持ちになりました。今度は高いともおっしゃらず、お会計。

それでお帰りかと思いきや、表の洋書棚に捕まり、一冊抜き出すと、またお会計に来られました。

「もう行かなくちゃ、芝居を見に来たのに」。外に出られると、さっきと同じ棚の裏側を見て「アーこんな本がある。困るなあ」。

「荷物は増やしたくないから本は鞄に入れる」と仰っていたのですが、結局、紙の手提げ袋をお出ししました。

「やっぱり買っちゃうんだよね。潰れないで下さいよ、私よりお若いと思うけど」。

何となくこの方のお話しぶりにも慣れてきた店主は、「保証いたしかねます」とお答えして、お見送りしたのでした。

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2014年06月25日

次があるか

都下で福祉活動をしておられるNPO法人の方が、ある日、小店に来られ、寄贈を受けた図書を引き取ってもらえないかと仰います。

運営費の足しにとリサイクル活動をされているようで、本も多く寄付を受けるのだそうですが、なかには施設のショップでは売れそうにないものがあり、これまでも、古書店に引き取ってもらったりしたそうです。

ところが、お付き合いのあった古書店が店をたたまれてしまったので、人づてに小店の名を聞いて、お訪ね下さったのでした。

RIMG1374「和綴じの本などもあって、私達では判断がつかないのです」という言葉に動かされたわけではありませんが、「分からないものは市場に出すこともできますから、お気軽に」と、お答えしておきました。

日ならずしてお電話があり、とりあえず3箱ほどを送るとのこと。そして言葉通り翌日、小型のみかん箱が3つ届きました。

着払い代金3200円余りを支払い、早速開梱して、暗然といたしました。文学書、小説などの古いところが80冊ばかり。状態さえよければ、それなりに踏める本もあるのですが、いかんせん、いずれもイタミ、ヨゴレが相当強い。

たとえば三島由紀夫の『肉体の學校』(集英社、昭和39年)などは、確かに初版本で帯もついていますが、ビニールで私製カバーが付けてあり、それをテープ留めしたため見返しにそのシミ跡が写っています。

小口にツカレもあり、ネットで500円で売られているものより、良い状態だとは思えません。

和装本も入っていました。題箋から端本と分かるものが2冊。あとは題箋のないものが5冊で、それらも一冊を除いて端本。いずれもツカレ、イタミが激しい、しかも明治本でした。

結局、送料以上にお支払できる値には踏めず、その旨をメールでお伝えいたしました。これに懲りず今後もご利用くださいと。

次回以降は、小店の契約運送業者に運んでもらうことをご提案しましたが、果たして次回があるでしょうか。

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2014年06月24日

素人さんならともかく

RIMG1383市場を運営していると、面白いこと感心することに、しょっちゅう出くわしますが、ごく稀に嫌な思いをさせられることもあります。

先日、ある同業から、ご自身の出品物が思ったような値にならなかったことに関して、皮肉たっぷりのFAXを頂戴いたしました。

地方の方で、「わざわざ東京に嫁に出したのに、こんなことなら地元の市に出せばよかった」とも書かれております。

落胆は重々お察し申し上げるとして、それに対して、会が対処すべき、どんな手段があったでしょうか。

会に仕分けを任されたわけではありません。出品明細がついており、その通り封筒を付けて出品しました。あらかじめお知らせいただいていたので、特選目録にも掲載しました。陳列も充分良い場所をとり、見やすく並べたはずです。

会としては、セールスを行うわけではありませんから、そこから先は、入札する業者の判断です。さらに、出品者は、これ以下では売りたくないという「止め値」を入れておくこともできます。

何より理解していただきたいのは、こうした一連の業務は、組合から委託された各交換会が、会員の手により、せいぜい交通費程度の手当てで行っているということです。

定められたルールで、業者同士が本を交換する。その仲立ちを、僅かな手数料で行う。それが交換会の役割です。僅かとはいえ、少しでも高値で取引されることが、交換会にとっても利益であることは言うまでもありません。

こんなことは、少なくとも東京組合員なら常識以前の問題で、だからこそ売値が安かったからといって、その不満の矛先を直接、交換会に向けるということはありえないでしょう。愚痴はこぼすとしても。

もちろん、地方の同業も、大方はそのあたりについてのご理解はあるはず。だからこそ稀な例だと申し上げたのですが、ちょっと落胆させられる出来事でした。

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2014年06月23日

七夕目録の発送

tanabata明治古典会七夕古書大入札会の目録が出来上がりました。

今日、事前に注文した部数が各古書店に届き、そこから一斉に、それぞれのお客様宛、発送されているはずです。

何百部と発送する店がある一方、5部、10部という部数を取って、限られたお客様にお渡しするという店もあり、まちまち。

小店も毎年、古くからのお客様のなかで、興味をお持ちいただけそうな方に絞って、20部ほどをお送りしてきました。

何しろ日頃扱っている本とは、ジャンルも、価格帯も違いますから、30年経っても、こうした目録を送る顧客リストというようなものは、持ち合わせないのです。

いきおい、商売としてというより、ご挨拶代わりという趣旨になり、注文をいただくことも滅多にありません。まあそれで良しとしてきました。

しかし今年は、立場上、例年よりは積極的な姿勢を示さなければなりません。誰に言われたわけでもないのですが。

そこで、いつも20部のところを40部発送。努力と言っても、その程度。結局は後方支援に終わりそうです。

今年もおよそ2000点の商品が掲載されています。最低価格は、近年引き下げられたとはいえ3万円。バブル期からは比べ物になりませんが、それでも億単位の出来高になります。

依然として業界では、年間を通じて一、二を争うビッグイベント。今年はどんな話題が生まれ、どんな結果に終わるのか。

小店に注文が入るかどうか以上に、その方が気になります。などと言っては、きれいごとに聞こえるでしょうか。

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2014年06月22日

流行ってる

「なかなか流行ってますね」と言われて、いささか面喰いました。

近くにお住いの元大学教授で、時おり店を覗かれては、仏独の洋書を2冊、3冊と、お買い上げいただく方です。

確かに、その方のすぐ前に、100円の時代物文庫をまとめて22冊、レジにお持ちの女性がいらっしゃいました。

そのまたすぐ前に、小さな兄弟を連れたお母さんが、表の100円オモチャをそれぞれに一つずつ許可して、三人でレジの前に立ちました。

RIMG1372僅かな時間のことです。

朝から昼過ぎにかけて、思いのほか強い雨が降り続き、今日はあがったりだと観念したことを思えば、お客様にいらしていただけただけで有り難いことに違いありません。

しかし、開店から閉店(今日は休日で午後6時閉店です)までの間、店内無人という時間の方が、はるかに長かったことは確か。

その僅かなタイミングで、実情とは全くかけ離れた印象を持たれることもあるのが、考えてみれば面白いところです。

「女房が欲しいというんで」と、元教授がその時お買い上げくださったのは、店頭に並べた日本児童文学館の中の2点、『西條八十童謡全集』と佐藤春夫『蝗の大旅行』。

じつはお昼頃に一度、ご来店いただいています。家に戻られて、「懐かしい本があったよ」とでも、奥様に話されたのでしょう。

いわば「お使い」に来られて、思いもかけずレジに人が続き、しばらくお待ちいただいたということでしょうか。

ふだん人気のないことも重々ご承知のはずですので、珍しく立て込んでるじゃないかという、冷やかしだったのかもしれません。

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2014年06月21日

語るに落ちる

「お前が産めよ」で一躍、脚光を浴びることになった東京都議会。

新聞、TVの報道を見聞きしながら、以前、小欄でも取り上げたことのある、映画『台風騒動記』(杉浦明平原作・山本薩夫監督・1956年・松竹)に出てくる町議会を思い出しました。

同じような場面があるわけではありませんが、そこにこのエピソードを挿入しても、まさにピッタリとはまりそうだと思ったのです。

映画を観たときは、あまりにも戯画化が過ぎると思わなくもありませんでしたが、現実の議会の方が、はるかにウワ手でした。

少なくとも、あの町議会の議員さんたちと、都議会某最大会派の男性議員の多くは、その女性観を語らせたら、ほとんど意気投合することでしょう。

とりわけその感を強くしたのは、発言への対応ぶりを知らされて。

発言当事者を抱える(と誰もが思っている)会派の長は、その発言者の特定は難しく、そうである以上、軽々に誰彼を疑うのではなく、お互いに今後は、発言に気を付けよう、というような趣旨を語っていました。

russian posterどうみても、発言自体を一般的な失言のレベルに相対化しようとしているとしか思えません。あるいは、会派長自身、その自覚すらないのか。

何より笑えるのは、特定が難しいなどと、何の臆面もなく述べている点です。誰が言ったか分からない、すなわち、誰だって言いそう――、そう白状しているのに等しいのに。

語るに落ちるとは、まさにこのこと。ますます、あの町議会と二重写しになってきました。

関西弁に「いちびり」という言葉があります。発言者は、せいぜいそんな手合いでしょう。しかし、それを隠すことで、より深刻な倫理欠如が露呈してしまったようです。

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