2016年03月

2016年03月31日

一睡の夢

「日本の古本屋」を管理してくれるシステム会社と、新しい契約を結ぶ必要が出来て、午後から古書会館に。

出がけに手に取ったのは、古びた新潮文庫の『スケッチブック』(アーヴィング、吉田甲子太郎訳)。いま手元にありませんから、印刷年は確認できませんが、初版は1957年。

黄ばんだ紙はともかく、活字の小ささに驚きました。どのみち眼鏡をかけて読むのですから、読めないことはありません。その薄さが有難いと、電車のお供に選びました。

冒頭の3編まで読み進むと、次の見出しに「リップ・ヴァン・ウィンクル」。何ともうかつなことに、この短編がワシントン・アーヴィングの作であることを、失念しておりました。

というのも、知識として「スケッチブック=アーヴィング」は持っていても、読んだことがなかったからです。だからこそ、ちょっと読んでみようという気にもなったのですが。

しかし「リップ・ヴァン・ウィンクル」だけは、読んだことがありました。それも英文で。

いまから50年以上前のことです。当時中学生の店主は、奇特な老先生が損得勘定抜きで開く、英語塾に通っていました。老先生と申しましたが、いま思えば50代半ばではなかったでしょうか。

若い頃はアメリカで暮らしていたという先生の私塾は、月謝は格安、授業は週5日。その代り休むとひどく叱られました。遅刻すれば、理由を英語で言わされたものです。

教材はガリ版刷りの手づくり。テキストを買わされることもありませんでした。その手づくり教材で読んだ一つが、このお話だったわけで、思わず懐かしさに打たれた次第です。

RIMG0863話はほとんど忘れましたが、Nine Pins だけは印象に残っています。改めて読んで、これは日本語で読んだとしても、中学生には味わいが分からないだろうと思いました。先生は、何を思ってこれを教材に選ばれたのでしょう。

それにしても、彼の一眠りは約20年。店主には、50年すら一睡の夢のごとしです。

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2016年03月30日

怪盗M包囲網

RIMG0863昨日の洋書会でのことです。

開札後の落札品整理もほぼ終わり、そろそろ引上げようかというころ、同業のT書店さんが「実は」と切り出しました。

「河野さんから連絡をもらった例の万引き犯、昨日も店に来て。こちらも注意してずっとついて回っていたんだけど、ちょうどお客様が来てお勘定をしているうちに、やられちゃった」

「今度来たら、出入り禁止を申し渡した方がいいですよ。何故かと聞くようなことがあったら、同業から手配書が回っているとでも伝えてください」

そんな会話を交わしていると、たまたま近くにいた若い同業のAさん、「どんな人ですか」と話に加わってきました。最近独立した方で、店はTさんの隣駅。心配になるのも無理ありません。

そこでスマホのメールブラウザを開いて、E書店さんから届いたメールに添付された、万引き犯の顔写真をお見せしました。

するとAさん、「あー知ってる、この人!」と大声。かつてS書店で働いていたころ、よく店に来ていて、そればかりか、一度はその家に宅買いに行ったこともあるというのです。なかなか立派な家だったとか。

先日メールを送った何人かの同業の中には、同じように、良く来て買っていくお馴染みさん、として記憶している店もありました。また別の同業は、最近、宅買いに行く約束をしたらしいのですが、その後、電話連絡が取れなくなったと話してくれました。

かなりあちこちの本屋に顔を出しているようですが、それだけに今回、このような形で情報が共有できたことで、この怪盗Mの暗躍を、大幅に制限できるのではないかと期待しています。

これまでのことは仕方ないにしても、今後の被害は防ぎたい、というのが大方の同業の本音でしょうから。

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2016年03月29日

お礼のどら焼き

RIMG0863開店の準備を済ませると、早々に古書会館へと向かいました。

午前10時過ぎ、4階の会場には、昨日のカーゴ5台が、すでに運び込まれていました。他にも会員の出品が2口、それぞれカーゴ数台ずつ。会員以外からの出品も合わせてカーゴ3〜4台。全体の出品量は、かなり多目です。

当番会員さんも、手分けして作業しなければなりません。小店の仕分けには、2名が担当してくださいました。カーゴから降ろして並べるだけでも一苦労です。充分な場所が取れないので余計に大変でした。

もっとも、他の仕分けが終わるにつれて、手助けの人員が増え、最後の段階では、ほぼ総出でお手伝いいただくことになりました。おかげで何とか、午後1時半頃までに、陳列を終えることが出来たのです。

あらためて並んだ本を見ると、英文学の分野では定評のある本ばかり。それも特定の作家、時代に偏らず、かなり万遍なく集められたことが分かります。

ただいかんせん、このジャンル自体が現在、慢性的な供給過剰。専門店は、よほど珍しい本以外、買ってくれません。

中に何点か、定本とされる個人全集類もあったのですが、揃えば高価な値がつくというそれらの全集は、刊行途中で旧蔵者が亡くなられたため、ことごとく途中の巻までしかありませんでした。

というわけで、やはり予想した通り、殆んどは専門書としてより、ディスプレイ本として落札された感があります。

そのディスプレイ需要の方は、この間うちの過熱相場が一段落して、やや冷静な落札価になっていたようです。数週間前ならば、もう少し値になったかもしれません。

いずれにせよ、当番の会員さんには大変お助けいただきました。会員ですので仕分代は請求されません。せめてものお礼に「嘉祥庵」のどら焼きを差し入れ、お礼の気持ちといたしました。

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2016年03月28日

抜け殻蔵書

大気が不安定で、雷雨があるかもしれないという天気予報が出ていて、それが今日一番の心配事でした。

午後から宅買い。田町駅近く、先日一度下見に伺ったお宅です。

周りのビルと比べると小振りな8階建てマンションの、7階と8階をメゾネットとしてお使いになっておられ、書庫は8階。

8階にも出入り口はあるのですが、書庫の入り組んだ書棚から本を抜き出し、廊下を通って外に出す作業の大変さを考え、若い同業にお手伝いを頼みました。

もうひとつ間が良かったのは、今日来てくれた運送屋さんが、10年ほど前に、ここに来たことがあると分かったことです。組合関係の運送を一手に引き受けている会社ですが、運転手さんは何人もおられるので、やはり偶然というべきでしょう。

この二人のおかげで、予想していたよりずっと早く仕事が片付きました。カーゴ5台に積み込むのに、2時間と掛かっていません。

まだ続けることもできましたが、問題は明日、これを仕分けて出品しなければならないということです。それに要する労力と時間を考えて、ひとまずそこで止めておきました。

以前に一度、蔵書を処分されたというお話は、あらかじめ伺っておりました。引き取られたのは、すでに亡くなられた洋書会の先輩で、英文学が専門。その方が運び出した後の英文学者旧蔵書に、目ぼしいものが残っているとは思われません。

RIMG0806相場の下落に加えて、そのような状況ですから、到底ご満足のいくような金額にはならないであろうことは、重ねてご説明いたしました。言い訳がましく聞こえないことを願いつつ。

ご理解していただけたとは思いますが、結果をご報告するまでは、安心できません。少しでも良い値になることを、祈るばかりです。

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2016年03月27日

パラサイト

RIMG0805しばらく鳴りを潜めていたかと思ったら、春になってまた動き始めたようです。

虫ではありません。虫だとしたらかなりたちの悪い虫、しかしれっきとした人間です。

昨年11月、小店に本を売りに現れ、少し経ってからまた店に来て、今度は自分で売った本を万引きしていった男。その後、また別の本を売りに来て、買った後で調べると、沿線の同業の店から盗ったものだと分かった、その男。

次に空のバッグを提げて店に来たとき、「もうやめなさい」と警告すると、顔色を変えて帰って行き、冬の間は近隣の書店でも、顔を見かけることがなくなったと聞いておりました。

それが数日前、その男から本を買ったと、ある同業から連絡が入ったのです。その同業こそは、小店で買い入れた本を盗られた店のご主人でした。

今回売りに来た本は、あまり値のつかないものだったらしいのですが、それだけに目的は「仕入れ」かも知れないと考え、店員さんにしっかり見張りをさせたようです。そればかりか、店員さんはその男をしっかりカメラに収めました。

その写真を小店に「この男でしょうか」と送ってきましたので、間違いありませんと返し、合わせて被害に遭いそうな書店数軒に、個別に写真を添付したメールを送りました。

すると、驚いたことにほぼすべての店が、その男の顔を見知っており、少なからぬ店が、挙動に不審を感じていたと言います。すでに被害を受けていたらしい店もありました。

鳴りを潜めていたのは一時のことか、あるいはその間も、行動範囲を変えて活動していたのか。いずれにせよ、しっかりした対応策を考えなければなりません。まずは、もう少し範囲を広げてお知らせしようと思います。

棚に並べる本については、「隠し印」を入れるという風習が、復活することになるのでしょうか。

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2016年03月26日

不思議な建物

RIMG0808危うくすっぽかすところでしたが、午後から1件引取り。駒場の研究室です。

すでに下見はしてありましたから、およその量は分かっています。店の車に台車を積んで、慌てて出かけました。

2号館というのは、とても不思議な建物で、正面入り口の前が、後から建った12、13、14号館などに囲まれて中庭のようになってしまっています。

だから初めての時は、建物は見えているのに、どこから入っていいのか分からず、焦ることになります。

初めてと言わず、2度目の今日も、車を止めておく場所に迷っているうち、今度は降りてから混乱してしまいました。

建物の両脇に通用口があって、そこはすぐ目に入るのですが、普段は施錠されていて、鍵なしでは内側からしか開きません。

今日は土曜日で、正面入り口も施錠されています。ともあれ台車を押して正面入り口まで行き、研究室の方を携帯で呼び出して、迎えに来ていただきました。

今回の蔵書は、法律関係、それも国際法、知財法、特許法といった、動きの激しい分野がご専門の先生のものだったようです。

見たところは新本のような本ばかり。しかし手に取って見ると、前世紀の本も多い。すでに学生さんたちが抜いた後というのですから、専門の方面では目ぼしいものは残っていないはずです。

それでも、200冊ばかり選ばせていただいて、店に持ち帰りました。調べてから、ご報告することになっています。

車に積んでいるうちに、この2号館、前にも何度か来たことを思い出しておりました。すぐ目の前の、土手の桜は、ようやくチラホラと咲き始めたところのようでした。

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2016年03月25日

盛り沢山の金曜日

お昼過ぎ会館について、明治古典会を30分ほど見てまわり、美術関係洋書の一口が出ていましたので、札を入れようともう一度見直して、結局一点だけ入札。

RIMG0810いつもの仲間と連れだって昼食。いつもの「たんぽぽ」が、今日は品切れ終了で、「ふたば」という定食屋さんに。

この店は、建物こそ建て替わりましたが、古くからある店で、贔屓にしている人も少なくないのですが、我々は最近あまり足を向けません。一つには、席が少なく、連れ立って行くと入れないことが多いからです。今日はたまたま、席が空いていました。

会館に戻り、幾つか雑用を済ませると、午後3時からは新規加入者の面接2件。来週もう1件あり、今度の理事会で承認されれば、一気に3名の組合員が増えることになります。

再び明古の会場に戻り、短時間ながら札改めのお手伝い。開札はほどなく終わり、月末恒例フリ市となりました。

じっくり観戦(?)したいところでしたが、もう一つ用件が残っています。7階の役員室へ向かいました。

過日ご紹介した、2万5千名の著作者リスト。みかん箱20個分あるという中の1箱が組合に届き、その内容について検討することになっていたのです。

その方面に詳しいと思われる同業3名ほどをお呼びして、一緒に見ていただきました。

すると、うちの1人が、見た途端に「ああこれは…」と、作成者を言い当てたのです。同時に、その資料の価値についても太鼓判を押してくれました。まさに蛇の道は蛇。

しかしこれによって、さらに次のステップに進まざるを得なくなりました。喜ぶべきか、悲しむべきか。

入札した一点は、落札しておりました。

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2016年03月24日

「東京の古本屋」

「東京の古本屋」と題された、短いエッセイを見つけました。

少しでも古本探しをやった経験のある人ならば、同感してくれるにちがいないと思うが、東京の古本屋というものはこれでどうしてなかなか大したものである。話を英米の書物にかぎっても、向こうで探しても容易に入手できない書物が、意外に東京の古本屋の店先で見つかることがある。時には貴重本ともいってもいい種類の本が手に入る場合さえある。

essay西川正身エッセイ集と副題が付いた『アメリカ文学研究余滴』(研究社出版1991年)の中の一文ですが、その初出は、文末の記載によれば『群像』1960年3月号。

1988年に亡くなられた西川氏を偲んで、2人のお弟子さんが編まれた本書は、6つの章に分けられていて、その冒頭に「古書・蔵書」というタイトルのもと、このエッセイをはじめとする6編が収められています。

西川氏の名は、由良先生から翻訳の達人とお聞きして、初めて店主の頭に入りました。実のところ『悪魔の辞典』は中学生時代に自ら購入した、数少ない書物の一つでしたが、その訳者の名に注意を向けることはありませんでしたから。

その西川氏が、人も知る蔵書家であったというのは、この本を読んで初めて知ったのですから、店主の鈍さも相当のものです。

といいますのも、20年以上昔、駒場のある研究室から本を引き取った際に、古ぼけた本の見返しに「西川正身」と言うゴム印が押されたものが多数あったのです。

今思えば、東大の文学部英文科、アメリカ研究資料センター、千葉大学文学部、日本近代文学館など、しかるべきところにそれぞれ寄贈されたという、その残りが、長らくアメリカ科の研究室に残っていたのでしょう。
 
今回のこの本は、その研究室を引き継いだ先生の旧蔵本です。不思議な縁を感じました。

ともあれ、このエッセイ、古本屋への好意が感じられるエピソードに満ちていて、嬉しくなります。

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2016年03月23日

紛らわしい番号

kennedyちょっとした思い出のある本が、手に入りました。A.M.シュレジンガー『ケネディー』(中屋健一訳、河出書房1966年)上・下2冊。

それは、そそっかしい失敗話です。前にこの本を手に入れたのは、開業間もない、30年以上昔。初めは、店の棚に並べたはずです。

やがて本が増えてくるにつれ、しばらく店晒しとなっていた他の本と一緒に、当時参加を始めたデパート展に、いくらか値下げして出すことにしました。

それから何年も後、倉庫を片付けていて、デパート展の売れ残り本の中に、この本を見つけました。失敗はその時です。

ヒラを見ていると分かりませんが、背を見ると一番下に「河出書房」とあるそのすぐ上に、それぞれ1と3という番号が打たれています。つまり上巻に1、下巻に3。河出ワールドブックスのシリーズ番号です。

これを見てその瞬間、この本には中巻があって、それが欠けているのだと思い込んでしまいました。欠本を後生大事に、揃いとして売っていたのだと。そして改めて1冊200円で、均一本としてバラ売りしたのです。すぐに下巻だけ売れました。

その後、市場で何度も目にしましたが、いつも中巻がないのが不思議でした。やがてある時、このシリーズがまとめて市場に出品され、ナンバー2が別にあることが分かったのです。サルトル他『文学はなにができるか』がそれでした。

どうしてそういうことになったかは不明です。上巻初版は1966年9月20日、下巻の初版は10月10日。今日手に入ったのはどちらも3版で上巻が11月5日、下巻が11月10日の発行。

その上巻の巻末には1・2『ケネディ』、3『文学は何ができるか』、4『完全なる女性』までが、既刊として広告されています。どこで数字が変わってしまったのでしょう。

ただいずれにせよ、本を開いて確かめさえすれば、これが上・下で揃いであることは、すぐ分かったはずでした。

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2016年03月22日

源氏物語、読みましたか?

「源氏物語事典を手に入れたいですが。7千円と4千円があるらしいけど、千円くらいで手に入らないですか?」

何か無茶な話に聞こえますが、これには少し説明が必要です。

この方は、どうやらイスラエル人らしい。店主と同年配か少し上。時折店の前で、電話で話している言葉と、その風貌からの推測です。と言っても、店主はイスラエル語(ヘブライ語)を全く解さないので、確かなところは分かりませんが。

ともかく日本語は達者で、前には『現代中国事典』の安いのを探してほしいと頼まれたことがありました。この事典は随分値崩れしていましたので、それこそ定価の3割未満で、お納めすることが出来たのです。

RIMG0811なんでも必要なところだけ切り取って、あとは捨ててしまうから、多少状態が悪くとも、安いものが良いというご希望だったと思います。

前回は書名が指定されていましたが、今回は、源氏物語に興味を持ったので、その人物などについて分かるような事典が欲しいということでした。

7千円とか4千円とかいう情報を、どこで得られたのでしょうか。その価格で調べると、比較的最近出た、ある程度専門的なものが見つかりました。まだそれほど安くなってはおりません。

古い事典なら安くなっているものもありますが、お話を伺う限り、それほど専門的な知識を求めているわけではなさそうです。最近出たもので、もっと手軽な源氏物語入門のような本があり、その方が良いのではないかと、取り寄せることにいたしました。

その本が今日届きました。まだご本人にはお見せしていません。果たしてお気に召すかどうか。

それにしても、「あなたは源氏物語、読みましたか?」と尋ねられ、「いいえ」と答えざるを得なかったのには、いささか忸怩たるものがありました。「私は読みました」と誇らしげに言う彼に、一体どんな本で読まれたのか、今度伺ってみようと思います。

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