2016年10月

2016年10月21日

ピカソとドストエフスキー

RIMG1480最近あった二つの事例。

一件目は、店主とさして変わらないとお見受けする年配のご婦人。たまたまお向かいの、デザイン家具のショウルームに来られたお帰りに、小店が目に入ったらしく、物珍しげなご様子で入って来られました。

店内をぐるりと見回したあと、こちらを向いて「ピカソの本はありますか?」とのお尋ね。

「はい、それならこちらに」とピカソ・コーナーへご案内できるような古本屋は、日本中探しても、何軒もないことでしょう。当然小店にも、ございません。

「画集をお探しでしょうか?」とお尋ねすると、「ええ、今、絵を習っているものですから」というお答え。そこで「画集はありませんが、展覧会カタログなら」と、図録の棚へご案内しました。

しばらくご覧になっておられましたが、やがて「重いので、また今度にします」と、お帰りになりました。

もう一件は若い男性。まっすぐ帳場に来られて、「ドストエフスキーの本は、どのあたりにありますか?」

ずらりとそれが並べてあれば、胸を張ってお示しするのですが、現在棚に残っているのは、ほんの僅かなはずです。だから「何をお読みになりたいのでしょう?」と伺ってみました。

すると「何とは決めてません」というお返事。となると「ございません」とお答えしては嘘になります。「文庫はこちらとこちらの棚ですが、新潮社ならこの3冊、岩波ならこの2冊くらい、河出書房のものは今、在庫なしです」

このお客様も、いちおう棚の本を手に取ってご覧くださいましたが、お求めはいただけませんでした。

以前、友人につきあって、古着屋さんを覗いた時のことが思い出されます。友人は手慣れた様子で、あれこれ物色しておりましたが、店主は何を見てよいやら、手も出せずにおりました。

いったいその店に並んでいるのが、どんなものなのかも、店主には分からなかったのです。

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2016年10月20日

圧倒的多数の光景

午後6時過ぎの井の頭線渋谷駅。各駅停車吉祥寺行の先頭車両は、車内が見渡せる程度の混みようでした。

その一番先頭、運転室の壁にもたれ、何気なく全体を眺め渡すと、一種異様な感が襲ってきました。座っている人、立っている人、そのほとんど全員がスマホの画面に見入ったり、操作したりされているのです。

確かにそのように見えました。しかし冷静になって、もう一度、今度は実際の数を数えてみることにいたしました。

もちろん陰になって見えないところもありますから、正確には数えようもありません。それでもざっと、車内におられるのが70名ほどと目算すると、少なくとも6割、もしかすると7割。

余談ながら、原発再稼働に7割が反対、という7割とは、これほどの割合なのだということが分かります。

ちなみに、本を読まれていたのは、吊革につかまって文庫本を立ち読みされていた若い男性と、座るなりマンガ雑誌を取り出した中年男性――そのお2人しか目に入りませんでした。

もはや車中読書も、ほとんど絶滅に差し掛かっているということでしょうか。

事情があって、TKIの月例会議を30分ばかり早退し、その帰り道で目にした光景です。

今日の会議のもっとも重要なテーマは、最近低迷傾向にある売り上げを、いかに回復させるかということ。議題の中心となったのは、提供が急がれるスマホ対応の検索画面についてでした。

今やネット通販の6割はスマホだと、我らがコンサルタント氏は繰り返されます。言われるまでもなく、その対応が必要かつ、重要であることは事業部員誰しもが認めるところです。

しかし、本当に問題にすべきはスマホ人口の増加ではなく、読書人口の激減の方かもしれません。そんな気にさせられた車中風景でした。

RIMG1484会議の席で「店売りの落ち込みの方がもっとひどい」と、某人気店主が洩らしていたという話を聞き、小店だけではないという僅かな慰め以上に、事態の深刻さを感じた一日でもありました。

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2016年10月19日

30年前のご来店

昨日の洋書会で仕入れた本が、今日届きました。例の、お名前だけは存じ上げている先生の旧蔵書です。

仮にT先生とお呼びしましょう。この先生、本を大切に扱われる方のようで、多くの本に手製のカバーが掛けられておりました。

出品の際に、出来る限りそうしたカバーは外すようにしておりますが、手が回りきらず、そのまま出品されることもあります。昨日の市もそうでした。

そこで、届いた本の縛りを解き、まず残っているカバーを外す作業から始めたところ、文庫本より一回り小さい一冊のカバーに、小店のスタンプが見つかりました。

stifter確かに見覚えのある、茶色い未晒のクラフト紙。昔、包装紙として使用していたものです。文庫カバーにも使っていて、このようにスタンプを押しておりました。

T先生、小店にもご来店いただいていたようです。果たしていつ頃のことなのでしょうか。

その答えはすぐに見つかりました。後見返しの遊び紙、小店の鉛筆値書きの横に、同じく鉛筆で「河野書店/1989.11.13」と2行に分けて書き込まれてあったのです。

どうやら書店で購入した本には、その店名と日付を入れる習慣をお持ちのようで、たまたま同じ日付で「東大駒場」と書かれたレクラム文庫も数冊見つかりました。

何かのご用で駒場に来られ、生協書籍部と小店で本をお買い上げになられたらしいことが分かります。ちなみに、レクラム文庫に「den 8. Juli 1987 河野書店」と記された1冊も発見。

お年からすると由良先生、山口昌男先生などと同年配です。せめてお声でもかけていただいていればと、惜しまれますが、もちろん、だったらどうだということではありません。

T先生のWikiの肩書は評論家。店主などには、翻訳書の印象が強かったので、昨日は独文学者と書きましたが、あらためて業績を拝見し、納得いたしました。

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2016年10月18日

ディスプレイ市場

10月の洋書会当番も、今日で3回目。

RIMG1482その今日は、先日の「洋書まつり」売れ残り品処分市となり、大量の出品物で会場が埋まりました。毎週、組合員向けに出している案内メールにも、「本日、ディスプレイ用洋書大量出品されてます」。

すっかり市民権を得たディスプレイ本ではあります。確かに今日は、それを求める業者にとっては、大変お買い得な市であったことでしょう。

もちろん他の出品もあったわけで、仕分けを必要とする口もいくつかありました。その中で店主に任されたのは、ドイツ文学関係のカーゴ1台。

仕分けを始めてすぐに分かったのは、これが店主あたりでもその名を存じ上げている、ある独文学者の蔵書だということ。しかし分量と言い、その内容と言い、これがすべてであるとは到底思われません。

まだご存命の筈ですから、少しずつ整理を始められたのでしょうか。ともあれ、今回整理された中には、さほど値のつきそうなものはありませんでした。苦心して、目ぼしい本を30冊ほど選び、それを2点に分けました。

残りはそれこそ、ディスプレイ用に使えそうなものを、数10冊ずつ6点に分け、あとはひとまとめ。そうして、初めに選んだ2点だけに札を入れ、開札を待ちました。

結果は、2点とも見事、トンビに油揚げを浚われるごとく、他店の落札するところとなりました。

あまつさえ、どうしても札の入らない別の2点に、責任上最低価格の札を入れ、それらを引き取る結果ともなりました。まるで自分が出品した時のような結末です。

とはいえ、その中にも、手間さえかければ生きるものはあるはずです。明日届いたら、早速整理することにいたします。

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2016年10月17日

「洋書まつり」総括・自店篇

RIMG1481「洋書まつり」に出品した本の残りがカーゴ2台、雨の中を帰ってまいりました。

先週の木曜日に運び出したのも、カーゴ2台。つまり、行きと帰りの、積み方の差だけしか、売れなかったということになります。

「本が減らないで、お金が入ってくるのだから、こんないいことはないじゃないか」というのは、今回の話ではなく、以前から本屋仲間で交わしている軽口の一つです。

気は持ちようということでしょうが、当節、むしろ本を減らしたいというのが、セールの主要な目的ですから、その点から見れば成功したとは申せません。

戻ってきた荷物を整理するために、カーゴから降ろしながら調べていくと、どんなお客様が来ておられたのか、何となく様子が分かってきました。それとは逆に、お越しにならなかったお客様も。

今回小店が出品したもので、一番良く捌けたのは、フランス好色文学の口。洋書会の市場で落札したものですが、あまり状態がよくないので、うんと安く値付けしたのが功を奏したようです。

冊数にすれば3〜40冊程度だったと思いますが、ほとんど残っておりません。

まったく動かなかったのは、スペイン演劇関係の口と、ドイツロマン派文学の口。これらも相当お買い得な価格にしたつもりですが、関心を持つ方が来られなかったようです。

ブログでも何度かご紹介したサーカス、雑芸関係の口は、思ったほど減りませんでした。ただし、ガラスケースに並べたやや高い本が2点売れ、これまた予想外でした。

今回並べた英語の本は、お客様から買い入れた一般書と、市場で仕入れた医学系で、どちらもはかばかしくありませんでした。医学書はともかく、一般書がもっと売れるような売り場にしなければと、改めて思いました。

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2016年10月16日

難しいメール

小店のようにヒマな店でも、2日間留守にしておりますと、それなりに雑用が溜まっているものです。

とりわけメールなどのお問合せへの返事が、何かと面倒であったりします。というのも面倒なものでなければ、家人でもバイトのΧ君でも、返事できるからですが。

どんなメールが面倒かと申しますと、例えば次のようなもの。

RIMG1451線引き、書き込みの有無、シミ、ヤケ、その他本の状態について詳しく教えてください。なるべく安価で綺麗なものを求めております。

ごくまっとうなご要求だと思います。どこが難しいのかと思わるかもしれません。例えば、線引きでも、シミ、ヤケでもあれば、そうお答えすれば済みます。

しかしこの本には、そういう難点がありません。だからこそ何の記載もしていなかったのですが、では「綺麗」かと問われると、その基準がどのあたりにあるのかによって異なってきます。

うかつに「美本」などと答えて、後から、ここに小さなスレキズがあるなどと、クレームを頂戴することがないとも申せません。

特にこの方のように、価格と状態という二つを秤にかけておられる場合、どちらに比重がかかっているのかによっても、本の状態に対する評価は違ってくるはずです。

実際に手に取って比べたとしても、こちらの安さと、あちらの綺麗さのどちらに軍配上げるかは、ご本人にしか決められない問題でしょう。

とはいえ、いただいたメールにお返事を出さないのも失礼です。遂には短いメールをお返しいたしましたが、お客様には、その短い答えのために、どれほどの時間をかけたかは、なかなかご理解いただけないだろうと思います。

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2016年10月15日

第49回「洋書まつり」総括

RIMG1446無事、二日間が終了しました。大きな違算もなく、皆さんに売上金を配り終えてまずは一安心。全員で会場の後片付けも済ませると、午後6時半を回っておりました。

さらに何やかや確認事項があって、神保町の駅までたどり着くとすでに7時過ぎ。帰りの電車が土曜日とあって空いていて、座ることが出来たのには助かりました。

さて今回の「洋書まつり」、ホットなうちに印象に残った点を振り返っておこうと思います。

まず全体の売り上げは、昨年比で2割減。昨年が、それまでに比して良かっただけに、また元に戻ったような感があります。

しかも、今回は参加店が前回より2店舗多い。その新加入の2店はそれぞれに健闘いたしましたので、続けて参加している他店の落ち込みは、さらに大きいことになります。

新加入は、五山堂書店さんと、三日月書店さん。この2店がまずまずの売り上げであったのは、これからも続けていただくために、大変良いことでした。

一方で、従来組ですが、落ち込みの幅は各店によってまちまち。さほど大きな売り上げ減とならなかった店も、もちろんあります。

堅調だったのは、哲学、思想などの学術書。それに独自の客層を持つミステリー関係。それとは逆に、今回とりわけ振るわなかったのは英米文学関係です。

各店、専門色がはっきりしているだけに、その関係のお客様が来られるか来られないかで、売上に大きな影響がでます。

このところ増えていた、ディスプレイ需要と思われるお買い上げが、今回はあまり目立たなかったのも、不思議な現象でした。

小店の反省は、また別の機会といたしましょう。

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2016年10月14日

「洋書まつり」初日

午前9時ちょっと過ぎ古書会館に着くと、玄関前にすでに数名、開場を待っておられるお客様の姿をお見受けしました。

会場へ入り、あれやこれやの準備を整えているうちに10時15分前、玄関が開けられて、お客様の列が地階即売展会場の入り口まで降りてこられました。後続は階段上、玄関あたりまで並んでおられるようです。

押し寄せる熱意のようなものを感じながら、最後の点検を済ませて一同配置につき、定刻5分前、早目に開場いたしました。

なかなか好調な出足でした。用意した取り置き用のテーブルには、瞬く間に山のように本が積み上げられ、真剣な表情で品定めをしておられます。

やがてそれらの内、あるものは選ばれ、あるものは棚に戻されて、帳場に持ち込まれるわけです。こうして初めの3時間ばかりは、あっという間に過ぎました。

RIMG1455しかし交替で昼食に出かけて戻ってみると、会場はかなり落ち着いた雰囲気になっております。そしてそれから閉場時間近くまで、朝方とは打って変わった静かな時間が続いたのです。

もう一度賑わったのは閉場時刻の午後6時前後。殆んど一日がかりで品定めをしておられた数名のお客様が、一時に帳場に来られて、俄かに忙しくなりました。

なかでも一番最後となった、5〜60冊の本をお買い上げくださったお客様は、何度か配送をお勧めしたのですが、すべて自分で持ち帰るとおっしゃいます。会員が何人も手分けして、大きい方の紙袋に目一杯積めたところ、全部で4袋になりました。

数十分後、閉場後の片づけを終えて、会館を出ようとすると、玄関ホールで先ほどのお客様が、袋の詰め替え作業をしておられます。さらにぎっしりと詰め込んで、3袋にまでされたようです。

しかし目方が変わるわけではありません。はたして無事にお持ち帰りになれたのでしょうか。

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2016年10月13日

準備の不安

RIMG1414カーゴ2台に目一杯積み込んだ本を、「洋書まつり」に向けて運び出したのですが、それで少しは店の中が空いたかと言えば、まるで変化なし。

逆に言えば、それだけの荷物を、今までどこに置いていたのでしょう。いつものことながら、不思議というほかありません。

ともかく朝一番に運送屋さんが来られて、無事に搬出が終わりました。おかげでお昼までの間、店の仕事を少しばかり片づけることが出来ました。珍しくゆとりのある並べ当日です。

昼食を済ませてから、神保町に向かいました。地下の会場は、すでに展示台の配置が完了していて、早くも陳列を済ませた書店さんもいる様子。

各店それぞれ事情があるのでしょう。こうして早く済ませてしまう店もあれば、皆が並べ終えたころになって、あたふたと駆けつける店もあります。

店主は、一応定められた時刻に現場に行き、3時間ほどかけて陳列を終えました。手早いとは言えません、時間がかかる方。

それでも今回は、陳列台数対して、持ち込んだ量がほぼ適正でしたので、小店としては順調に作業を終えられたと思います。

何軒かの店は、隙間なく並べても、なお並べ切らないでカーゴに積まれたままという状態で、何とか並べようと難儀されている様子でしたが、それだけ気合が入っているということでしょう。

参加店も前回に比べて3軒増えましたので、会場はいつものようなゆったりした感じはありません。しかし本を探しに来られるお客様にとっては、喜ばしいことでもあるはずです。

いよいよ明日が初日。年に一度のことですので、必要な備品はすべて揃っているか、前夜はいつも不安に襲われます。

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2016年10月12日

並んで本を買う

「洋書まつり」の準備もあって慌ただしく日が過ぎ、気がつけば10月も半ば近くになりました。

さらに気がついたのは、10月に入っても、8月、9月と変わらない、いや、むしろもっと低調かもしれない店の売り上げ状況です。この先、少しは盛り返してくれるのでしょうか。

末の娘が、某大手新刊書店でアルバイトをしているのですが、時おり「今日は忙しかった」と言って帰ってくることがあります。レジに行列が出来て、ひっきりなしに打ち続けるのだそうです。

他の商売なら、驚きはしません。隣のコンビニでだって、そういう光景を目にします。でも本屋さんで、と店主などは信じられない思いにさせられるのです。

そういえば、かつてデパート展に参加した折、あまりに行列が伸びて、お客様からクレームを頂戴したことがありました。

けれどもそれは催し物の、それも初日の限られた時間帯の出来事でした。いまでも即売展によっては、そんな状況が見られることもあるでしょう。

RIMG1399しかし、普段の営業日に、お客様がレジに並ばれるような書店が、現にあるというのは、いろいろと考えさせられるところです。

もちろん新刊屋さんでも、状況はさまざまでしょう。また忙しいことと、収益が上がることとが単純にイコールであるとは限りません。

それでも、列を作って並ぶほど本が売れる、ということ自体が、小店のような、日に何人というお客様しか来られない日もある古本屋には、なかなか想像がつかないのです。

明後日からの「洋書まつり」で、本は売れるものであるという自信を取り戻したいものです。

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