2017年03月

2017年03月31日

硯でもちきり

文字通りの月末開催となった明治古典会3月特選市。満州関係書籍の一口を初め、いわゆる黒っぽい本が多く並び、明古らしい雰囲気の市となりました。

ちなみに、組合員に送られてくる市会案内メールに書かれていたのは、◆夏目漱石・与謝野晶子・佐藤春夫・柳原白蓮他短冊の一口◆切手趣味関連の一口カーゴ3台◆西洋・仏蘭西文学の一口カーゴ2台◆スチールカメラマン旧蔵映画スチールの一口、など。

RIMG1791しかしなんと言っても、この日の話題を独占した感があったのは、同じメールの最後に一行、付け足しのように書かれていた「硯一括 50個」の出品。

会場の一角にやや奥まったスペースがあり、大きな作業台が4台、中央に寄せて置かれているのですが、その台の上一面に、硯や墨入れが並べられていました。大小さまざま、時代的雰囲気もさまざま。50個とありましたが、後で聞くと実際はもっと多かったとか。

店主も以前、あるお客様から預かって、見た目には相当立派な蓋つき硯を、市場に出したことがあります。かなり期待していたのですが、結果はアテ外れで、さしたる値にはなりませんでした。

桁外れに高価なものもあると聞いていますが、その経験から、見た目では分からないことだけは肝に銘じております。それだけに結果の予測はまるでつきません。興味津々、開札を待ちました。

結果は、この日の最高落札価格。どころか、年間を通じても滅多にない高落札価でした。

後から聞くと、荷主さんは見込み違いの仕入れをしたと思い、損をしてでも売るつもりだったと言います。それが損どころか、思わぬボーナスとなったわけで、実に福々しい笑顔を見せておられました。

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2017年03月30日

市場は有り難い

昨日、今日と、今週の洋書会で落札したフランス書約200冊を、せっせと値付けしております。

ドゥルーズ、デリダ、ナンシーなど現代思想の著作から、ベルクソンさらにはデカルトの研究書まで、比較的状態もよく、店の棚に入れたい本ばかり。

この間の火曜日は、それほど出品量が多くなかったなかで、これだけは手に入れたかった口でした。

RIMG1796おそらくその3倍以上の量を引き取って来られたものを、荷主さんご自身が丹念に仕分けして、思想関係ばかりを一山にまとめられたようです。

あとは文学関係、大判美術書、そしてポケット判がそれぞれ一山ずつに分かれていました。

仮に店主が仕分けても、同じようになったかもしれませんが、ここまでしっかり分けるのは結構な手間です。その挙げ句に、自分の欲しいところは他人に落とされるというのが、いつものパターン。

今回は、その逆の形になったわけです。店主が「とんび」でありました。

もっとも落ちたのは中札でしたから、荷主さんが、そこまで執着されていたとは思えません。せっかくなら上札になってほしかった、という悔いは残るとしても。

それにしても店主にとっては有り難い限りでした。自分の欲しい所だけがまとまっていて、それだけを値踏みすれば良かったわけですから。

これが直接お客様のところから引き取るとなると、この何倍にもなる残りの本についても、評価をつけなければならず、はたしてご納得いただけるような価格をご提示できたかどうか、自信がありません。

「市場は有り難い」という、ある同業の十八番が頭に浮かびました。

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2017年03月29日

ワールドニュース

近ごろは、朝、目を覚ますとまずTVをつけて、NHKBSのワールドニュースを見るのが習慣になっています。

気の滅入るようなニュースばかりで、何をすき好んでと思うのですが、地上波のほうはもっとうんざりするニュースか、どうでもいいような生活情報ばかり。

どうせ無力感にさいなまれるなら、世界の大きな不条理を見つめるほうが、まだましと思うのは不謹慎でしょうか。

このワールドニュース、同時通訳が音声をかぶせているのですが、まったく同時ばかりではないような気がします。

今朝、かなり流暢な通訳を聞いていたとき、ふと耳に残る言葉がありました。たしか「いちずをたどる」だったと思います。瞬間、なんのことだろうと訝り、やがて「一途をたどる」だと気がつきました。

なるほど「一途に思いつめる」というときは「いちず」です。しかし「増加の一途をたどる」というときには「いっと」ですね。

この通訳さん、言い回し自体をそのように覚えておられたのか、あるいは文字の読み方を混同されたのか。ありそうなのは後者だと思うのです。つまり事前に見て、メモなり原稿なりを用意している場合もあるのではないか。

RIMG1793ささいな揚げ足を取って喜んでいるわけではありません。たとえ文字通りの同時でないとしても、店主から見ればまるでマジック。その神業を聞くのが楽しみでもあるのです。

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2017年03月28日

万引き小話

oakバックヤードの片づけをしていたら、いつどこで手に入ったものか、薄いブックレットが1冊目に留まりました。

そのタイトルが気になって、ちょっと脇に除けておいたものと思われます。それがいつの間にか本の山に埋もれて、今日ふたたび姿を現したというわけです。

せっかくの再会ですから、ページを開いて見ました。本の大きさは菊判ほど。頁付けはありませんが1枚の紙を八つ折りし、中央を糸で綴じています。

osk2印刷されているのは、タイトルや奥付を除くと、序文が3ページと本文が6ページだけ。奥付からも分かるのですが、本文はThe Buglar who liked to quote Kiplingという本の最初の章を抜き刷りしたもの。

Lawrence Blockという著者については何の知識もありませんでしたが、Oak Knoll Booksには聞き覚えがありました。ネットで確かめると、いわゆるBooks on Booksを専門とする古書店で、その分野の出版も手掛けています。

序文によると、この冊子は、Oak Knoll Booksが出した初めてのChristmas Bookletのようです。以降も続いているのかは存じません。ただわずか250部のうちの1冊が、こうして小店に漂着したのは、不思議なことと言えるでしょう。

さてその本文ですが、これが一言でいえば「万引き小話」。20歳そこそこと見える男が、万引きをしようとして書店主に見抜かれ、やり込められるというお話。

店主が知らなかっただけで、この著者、翻訳も多数出ているようですから、あるいはこの話も、どこかで読めるかもしれません。

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2017年03月27日

ネットと店と

「クレジット注文していた者ですが、今日、そちらの方に行く用ができましたので、直接引取りに行ってよろしいですか」そんなお電話が朝のうちにありました。

昨日からの冷たい雨が、ずっと降り続いていて、外は凍えるようなお天気。結局、お昼過ぎまで、店の売り上げはそのお引き取りの方の1点だけでした。

KIMG0186午後にもうお一方。こちらも数日前にネットで注文を受けた本ですが、今日引き取りに来られることを、その時点でお知らせいただいておりました。お馴染みの駒場の先生です。

今日の売り上げは、その2件でおしまいかと思っておりましたら、雨の上がった夕方、フランス書を熱心にご覧の外国人がお一人。

長い時間をかけてようやく帳場に来られ「欲張りすぎて、読めないと思うから少し戻しました」と6冊の本を机の上に。現代哲学・思想系の本です。

お勘定を済まされると、手提げ袋に入れてお渡しした本を数え「1、2、3…、また6か月あとかな」。そんな言葉を店主に投げかけてお帰りになりました。

そのあと今度は1件の電話。「お店は何時までやっておられますか」「今日は平日ですから午後8時までです」。すると1冊の書名を上げられ、本の状態、価格のご確認。お答えすると、1時間ほどして、ご来店になりました。

「日本の古本屋」で見て、一番近くだった小店に、お越しいただいたとのことでした。

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2017年03月26日

引取り先

この年度末は、研究室からの引取りが一つもありません。必ずしも有り難いお話しばかりとは限りませんが、なければないで、淋しい気もいたします。

退職される先生が一人もおられないということはないと思いますから、あるいは「古本募金」が大賑わいにでもなっているのでしょうか。もっとも、彼らの向こうを張ろうという気にはさらさらなれませんが。

先日も、あるご婦人から、ご主人の院生時代の専門書を引き取ってもらえないかというお電話をいただきました。30年ほど前の本だということです。

お断りしておきますが、これは駒場とは無関係の話。30年前の専門書というだけで、まず腰が引けます。さらにお話を伺っていくと、「マル・エン全集が20数冊ある」とか。ご専門は経済学、それもいわゆるマルクス経済学。

KIMG0192そうと聞けば、ほとんどの古本屋は尻込みすることでしょう。やがて、何軒か懇意にしていた古本屋があるというお話をされました。

そこで、そうしたお店に頼まれたらいかがかと申し上げると、かつてある業者が引き取りに来たことがあるとおっしゃいます。どうやら今回処分したいのは、その時に「自店向きではないから」と残して行った本のようです。

丁重にご辞退申し上げますと、どこか紹介してもらえないかとの仰せ。それも控えさせていただきました。

「古本募金」をご紹介すれば良かったでしょうかね。

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2017年03月25日

就活アドバイス

就活の季節なのですね。今がたけなわなのか、もはや終盤なのか、その方面に疎い店主には全く分かりませんが。

KIMG0190我が家の3人の子たちは、事情はそれぞれながら、いずれも就活というようなものをほとんど経験しないまま、社会人の端くれとなりました。ですからその大変さも、世間話に聞く程度の知識しかありません。

店主自身にもまともな就活経験はありませんが、仮にあったとしても、すでに半世紀近くも前の話では、何の比較にもならないことでしょう。要するに、就活知識ゼロという店主であります。

そんな店主が店番をしていた先週の土曜日、一人の女子学生が大きな角封筒を手にして店に入ってきました。

郵便局の場所をお尋ねです。200mほど歩いた先にありますが、今日はお休み。そう伝えると、手に持った採用申込書封筒を送りたいが、重さを量れないので料金が分からない、と困ったご様子。

重さなら量ってあげましょうと、小店のはかりに載せ、ついでに料金も調べて差し上げました。居合わせた家人が気を利かせて、店の切手を料金分お譲りすると、喜んで出て行かれました。

そして今日、同じ女子学生さんが、またも角封筒を抱えて入って来られ、先日のように重さを量って、切手を売っていただけないかとの仰せです。

切手は販売しているわけではないと、ひとこと釘を刺したうえで、ご要望に従いましたが、もし来週また来られるようなことが有ったら、知識ゼロの店主ながら、いろいろとご忠告申し上げたい気分でおります。

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2017年03月24日

反ったヴェラム

今日の明治古典会は、やや少なめの出品量。それでも最終台にケルムスコット・プレス本が数点並んでいたりして、終わってみればまずますの出来高でした。

そのケルムスコット版、市場に出品されていると、必ずと言っていいほど表紙が反っていきます。もちろんヴェラム装の場合に限られますし、ヴェラム装の本であれば、どんな本でも多かれ少なかれ、同じように反るのですが。

一旦反ったヴェラムを元に戻すのは大変ではないか、というのは、店主自身の経験から思うことですが、店主はケルムスコット版を扱った経験がありませんので、ことケルムスに限っては案外簡単に押しのばせるのかもしれないとも思います。

それは余りにも容易に、しかも短時間に反りかえる場合が多いからです。さらにはそうして反った本に対し、入札する人たちがさほど意に介していないように見受けられるからです。

考えてみれば、初めから大きく反った状態で出品されることは殆んどないので、しばらく保管しているうちに湿分が戻って、反りが解消されるのかもしれません。

一度手に入れて、反りを戻せるかどうか自分で試してみたいところですが、簡単に手の届くようなものではありませんから、想像してみるばかり。

RIMG1785ただ、今日も反りかえったケルムスコット版それぞれに、何枚もの札が入って、どれも良い値段で落札されておりました。

いよいよ手に入れて試してみたくなりましたが、しかしどうせ手に入れるなら、反っていない本が良いですね。

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2017年03月23日

年代物ソフト

RIMG1784小店では在庫管理、販売管理などに「The Card」というソフトを利用しておりますが、このことは以前にも何度か書いておりますから、あるいはご存じの方もおいでだと思います。

このソフトはすでに販売およびサポート終了から長い年月が経ちますが、今日まで、数度にわたるOSのバージョンアップにも耐えて、無事に動いている優れものです。

データベース機能自体は「日本の古本屋」に用意されているシステムに、次第に比重が移りつつありますが、宛名ラベルや帳票の印刷といった作業は「The Card」の方が、まだまだ数段便利。というわけで領収書、納品書などはこの「The Card」で作成しております。

ところが、さすがに近ごろ、ちょくちょく不具合が生じるようになりました。先日も複数点の明細をデータ連携で読みこませているうち、エラー表示が出て強制終了。再び開いても新たな入力ができません。

やむなくフォームを再作成し、どうにか回復――と思っておりましたところ、日付のデフォルト値が2016年に戻っているのを見落としていたのです。

気づいたのは昨夕。エラー発生後、昨日までに発行した領収書は16通。

そのすべてを再印刷し、封書にして郵送。それに先立って全16件のお客様に「お詫びとお知らせ」メールを送信。それだけで、今朝の1時間余がつぶれました。

愛すべき「The Card」ではありますが、そろそろ帳票印刷機能を「日本の古本屋」に求めたい気持ちが強くなってきました。

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2017年03月22日

英語の達人

『トム・ジョウンズ』は日本語訳なら岩波文庫で4冊。ウェズレイアン版のフィールディング作品集だと2冊で千頁を超える長編です。

tomjonesと、そんな話を始めるのは、いま手元にその2冊があるから。1975年という刊行年が、標題の下に記されています。

イタミもヤケも少なく、ジャケットには薄いoppが被せられていて、なかなか良い状態。しかしBookFinderで調べると、図書館旧蔵本など、かなり安い価格が付けられているものもあります。

その価格では本が気の毒と思いながら、状態に関する記述を見較べつつ、まあこのあたりだろうと売り値の見当をつけました。

そしてもう一度、何気なく本を開くと、裏見返しの遊び側に薄い鉛筆でERRAT p.38という書き入れ。

興味を惹かれてそのページを開くと、余白に同じ鉛筆で、挿入を指示する校正記号とsの文字。その位置の行を目で追っていくとmispendという単語のsとpの間に挿入記号。つまり正しくはmisspendであろうと、訂正していたのです。

もう一つの巻にも同じような誤植訂正が数箇所なされていました。しかしそれ以外に線引き書入れはほとんどナシ。本のイタミの少なさからして、さほど時間をかけずに読み終えられたはずです。

あらためてこの本の持ち主だったK先生の英語力に、畏敬の念を抱きました。

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12月31日から1月3日まで
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