2018年02月

2018年02月18日

『見栄講座』

ドアを開けると、いきなり「はい、こんにちは」。

それからのっそりと店内に入ってこられ「えーと小学館の、神保町の案内所で聞いてきたんですが…」と、あたり憚らぬ大声で、男性客が店主に話しかけられました。

65024「そこで調べてもらったら、探してる本がこちらにあるということで。ミエコウザというんですが、ミエという字は…」

珍しく、ほかにお客様もおいででしたので、大声を途中で制し「分かりました。今取ってまいります」と申し上げると、「どこかにしまってある?じゃあ時間がかかるのかな」などと、さらに大きな声で続けられます。

急いで在庫場所を確認して、裏から出してまいりました。すぐ取り出せたのは、これを登録した時の記憶が、比較的鮮明に残っていたからです。

ひと頃なら均一本として表に出して売ったもの。今でもどこかの店頭で見つかるかもしれません。しかし「もう一回読んでみたくなって、いざ探しても、なかなか見つからないもので、調べてもらったところこの店が…」。

まさにそう考えたからこそ「日本の古本屋」に出品したのです。値段は千円。後から調べたところ、ほかに2店の出品があり、900円というお店も。ただ場所が八王子ということで、小店を選ばれたのかもしれません。

ご来店を想定して値付けしたわけではありませんので、たまたま、うまい巡り合わせで売れたことになります。ちなみにAm*z*nでは、倍以上の値で出品されていました。

個性的なお客様のお買い上げでしたが、この本は小店が開業した年(1983年)の出版。バブル前夜のあの時代を思い出すよすがに、ちょっと読み返したい。そんなところでしょうか、58才だと、ご自身でおっしゃっておられました。

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2018年02月17日

ホーバイ

昨日の講習会に出かけるとき、例によって手近にあった文庫本を一冊、携えていきました。洲之内徹『気まぐれ美術館』(新潮文庫)です。

以前読んだはずなのに、パラパラと目を通しても何も覚えておらず、初めてのように読めそうでしたから。

店から目黒税務署までは短い乗り換えばかりで、ほとんど読む暇はなく、会場についても講習中に読めるような雰囲気でなかったのは、昨日お伝えした通り。結局お昼の休憩が、読書の時間でした。

KIMG0424しかも持参のコロッケバーガーを食べるのに、コンビニでコーヒーを買ってきて、食べ終えてからおもむろに本を開いて、ということで正味30分ほど。

で、読み始めてしばらくすると、さすがにだんだんと思いだしてきました。

女は、自分たちには月に一回公休日があって、その日には青森へ行って、活動写真を見て、帰りにランチを食べるのが自分たちのただひとつの楽しみなんだと言い、あのときも朋輩とふたりで、映画館の帰りだったのだと言った。

このあたりになると、前に読んだことをはっきり記憶しています。しかしその時には読み過ごした「朋輩」――この文字には「ほうばい」とルビが振ってあるのですが、その音が、昨日は頭の中で響きました。

はるか昔、中学生のころ、毎年夏に友と2人、泊りがけで島に出かけたのですが、その宿の同じ年頃の少年が、私たちに呼びかけることばが、このホーバイでした。

説明を受けて、初めてそれが「友よ」という意味だと分かったのでしたが、何とも言えぬ親しみのある響きだったことを思い出します。

まだ若衆宿の風習が残っているような島でした。

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2018年02月16日

ワンマンアーミー

RIMG2605昨日に続いて、今日も講習に出かけました。それも朝の9時20分から、午後5時まで。実際には30分ほど早めに終了しましたが。

「乙種防火管理講習」というのが、その名称。この講習を受ければ、晴れて修了証が交付され、乙種防火管理責任者となる資格が与えられるのです。

もちろん、そんな資格が欲しかったわけではありません。ましてや、防火管理責任者などになりたいとは、毫も思いません。

しかし好む好まないではなく、それが法律の定めるところだといいます。法律というのは消防法。何法であれ、善良なる市民としては、進んで法を犯そうなどと、大それた考えは持てません。

昨年の11月頃でしたか、突然来訪された熱心な目黒消防署員さんの勧めに従い、今日の講習に出席することを承諾いたしました。

広々とした見通しの良い会場に着席すると、まず冒頭「居眠りをしたり、聞いていなかったりすると、資格を与えない」と、厳しくいい渡されました。別に欲しくないのに、などとはもちろん申しません。

若者が多く、時折、たまらず船を漕いでいる姿も見かけましたが、注意を受けたのは一人だけ。警告も退場もゼロ。店主は睡魔の気配を感じると直ちにそれを追い払い、しっかり目を見開いて講習を受けました。

意義がないとは申しません。聞いてためになる話も多かったのですが、この講習はこれが終わりではなく、管理者へのスタート。そう考えると、やはり違和感があります。

建物全体の規模はともかく、ほとんどは1人で店番、ご来客のおられない時間の方が圧倒的に長い小さな店に、A4何枚もの消防計画を作成せよというのです。さらには年に2度の自衛消防訓練を届け出て、実施せよと。

ワンマンアーミーよろしく、たった一人ヘルメットをかぶって、粛々と防火訓練をする姿を想像してみました。

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2018年02月15日

免許更新

KIMG0415いつもながら不思議な気持ちになります。ほぼ同じ月生まれの人ばかりが、ここに集まっているということに。

運転免許証更新のため、大手町の更新センターに出向きました。

いつでも行けると思っているうちに、次第に日数の猶予がなくなっていきます。今朝も一旦は、やめようと考えたのですが、そんな具合に先延ばししていると、より都合の悪いときに出かけなければならなくなるかもしれません。

意を決して今日にしました。

更新講習の時間が1時間ごとになっていて、10時からの講習を受けるのは時間的に無理。そこで次の11時に受けることにして、余裕を見て9時40分頃に出発。

井の頭線も、半蔵門線も遅延が出ているとかで、混雑したり、ノロノロだったり。それでも10時20分にはセンターに到着。30分から1時間かかることもある、とHPに書かれていた受付手続きは10分で済み、10時半には講習会場の椅子に着席しました。

講習自体は、特にお話するようなこともありません。ただ総勢20余名とおぼしき受講者の中で、見る限り店主が最年長。しかも年齢からして、いわゆる普通講習を受けられるのは、今回限り。次からは、まだ運転を続けようとするなら、高齢者講習というものを受けることになります。

講習の始めにそんな説明もあったのですが、身につまされて聞いたのは店主一人のようでした。

1時間の講習が済むと、すでに出来上がっていた新免許証を受け取って、終わりとなります。この講習前後の時間が格段に短くなったのは、まさに隔世の感。

受け取った免許証に写る自分の顔も、いつの間にか、すっかり時代を刻んだものとなっておりました。

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2018年02月14日

再び積み上げる

RIMG2633今日中にどこまで片づけられるか、不安になってきました。

かねてお約束していた駒場の研究室へ、本の引き取り。段ボール10箱の洋書というお話。

実はすでに一度、昨年の秋、日本書を30箱近くお引き取りしてきた、同じ先生の旧蔵書です。その際に、いずれ洋書もお願いしますとは、依頼されておりました。

先月末に、事務の方からご連絡があり、いつでもご都合の良いときにと言われていたのですが、なんだかだで2週間ほど経ってしまい、このまま引き延ばしてもと一念発起、伺うことにしたのです。

店に持って帰り、とにかく開梱。そのまま3分の1ほどを、まず処分本としてまとめました。そこまでで約2時間。

10箱のうち、2箱には日本書が入っておりました。そこで次は、それを片付けることに。前回と傾向はほぼ同じ。なかには今でも読まれているものもありますが、多くは昔の必読書。捨てるには忍びず、売るには苦労する本。

ということは、洋書も恐らく同じようなことでしょう。残っている本にもう一度目を通しながら、さらに処分する本を選別するつもりですが、頭を悩ませそうです。

植木の剪定と同じことで、余分な枝葉を切り払わなければ、生きる本も生きなくなります。しかし日本書だってその判断が難しいのに、洋書の、それも必ずしも得意分野ではない社会学系の本を、どう刈り込むのか。

少し床が見えてきた通路に、またしばらく積み上げることになるかもしれません。

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2018年02月13日

三方ややヤケ

66596この本に、ご注文をいただいたのは2月9日の夜。翌10日朝、在庫を確認し、送料などをご連絡しました。

クレジット決済ではなく、振込がご希望。連休中なので、ご入金は休み明けの13日以降になるかもしれないと、本をしまいました。

ところが12日の朝、店に来てPCメールを開くと、夜の間にキャンセル通知が入っています。キャンセル自体は珍しいことではありませんが、その文面は理解に苦しみました。

書籍の状態を考え、申し訳ございませんが、今回はキャンセルさせて頂きたいと思います。

これがその全文です。その書籍の状態についての説明は、次のとおりでした。

カバー帯三方ややヤケ 共通コンディション「良好」

確かに表記ミスもあります。「カバー帯」と「三方ややヤケ」との間にあるべきスペースがありません。しかし、そこが問題ではないでしょう。

「ヤケ」を火で焼けたとでも受け取られたでしょうか、まさかとは思いますが。それを避けるためか「日焼け」という表現をする書店もあります。しかし本書の場合は、日焼けというほどのヤケでもありません。

そもそも店主なら「ややヤケ」とさえ記さなかったでしょう。バイトのχ君は、色の変化に敏感で、新本のごとく真っ白でなければ「ややヤケ」の判定が下されます。

それをあえて訂正しないのは、χ君のように見る人も、いるかもしれないと思うからです。しかし結局は「三方」も「やや」も「ヤケ」も正しく伝わらなかったと考えるしかありません。

さもなくば、新本同然をお望みだったとか。

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2018年02月12日

三連休のお客様

昨日も今日も、数えるほどのご来客。こんなことなら、いっそ店を閉めて、ゆっくり体を休めるほうが良かったかもしれません。

昨日は、アイルランド人のO先生が久しぶりに店に来られ、しばらく時間をつぶしていかれました。

「休みないですね?」と確かめるように尋ねられ、ハイと答えると「信じられない」。お買い上げは結局、表のポケットブック1冊。folio双書だったでしょうかZolaのl'argent。

「これ、ないですね」とおっしゃるので、珍しい本なのかと思ったら、「学校をやめてから本買えなくなりました」

つまり退職してl'argent(お金)がない、そのことを言いたいために、あえてその1冊をお買い上げくださったということでしょうか。

今日は今日で、午前中ほかに誰一人来られない中、10時頃から1人の外国人男性が、大きな荷物を店の中に置いて、くまなく棚を見て回られました。

RIMG2606ゆうに1時間以上かけて、2冊の本をお買い上げくださったのですが、O先生より日本語はお上手。「ずっと以前にも、この店に来たことがあります」「いつごろですか」「2005年だったと思います」

今の店は2003年からですから、勘定は合います。短い会話のうちに、かつて演劇青年だったこと、食っていけないので研究者を志したことなどを聞きました。しかしその道も、決して楽ではないはずです。

今は京都におられるとか。「また来たいです」そう言い残すと、大荷物を引いて帰って行かれました。

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2018年02月11日

校本萬葉集

昨日の男性は、万葉集を探しに来られたのでしたが、今日は逆に「万葉集を処分したい」という女性のお話。

やはり1週間ほど前、店に来られたその女性は、言い出しにくそうに「ちょっとご相談があります。実は『校本萬葉集』を持っているのですが…」と切り出されました。

店主がお返事する前に「値段にならないことは分かっています。神保町の専門店にも尋ねましたから」

相談というのは、お金は要らないから、ともかく引き取ってもらえないだろうか、ということでした。

「勉強しようと思ったことがあり、先生に勧められ、ともかく揃えたのですが難しすぎて歯が立ちませんでした。それでも捨てるのは忍びないので」

確かに万葉集研究の基本中の基本と言える資料です。それだけに増補が重ねられ、そのたびに然るべき機関、研究者はこぞってこれを購入してきました。つまり必要なところには収まっているわけです。

もちろん、これから研究を始めようとする方が求められるかもしれません。しかし娘一人に婿八人。すでにネット上にも売り物が何組も出ており、値崩れ一方の状況。

菊版函入り全17巻をお引き受けしても、置き場に困るだけ。それが専門店の返事だったでしょう。

RIMG2631小店はといえば「重いので少しずつ分けて持ってきますから、何とか引き取ってください」とのお言葉を無下にもできず、昨日、今日と、3冊ずつのお持ち込みが始まったのでした。

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2018年02月10日

ビラ撒き計画

不思議な御仁に、見込まれてしまったようです。

1週間ほど前の夕刻、店に入ってこられた初めは、確かに本をお探しでした。店主と同年配の男性。「角川文庫の万葉集はないか」と、おっしゃるのです。

武田祐吉校註の2冊本のことだと分かりましたので、念のため棚を確認しましたが、在庫はありません。

そうお返事したあとも、何かと語りかけられ、いちいち返答していますと、お話は終わるどころか次々新たな話題となり、ついには何やら印刷物を店主に手渡されました。

RIMG2600飛躍が多くてついていけないのですが、要するに「世直し」の思いに駆られ、東京大学でビラ配りをしたいということのようでした。ちなみにご自身、卒業生だとか。

途中からは、適当に相槌を打って切り上げようとしたのですが、なかなかお帰りになりません。やがて閉店の時間になり、表の棚を片付けに出ても、話し続けながら外へ中へと、後をついて来られます。

その日は、もう閉店だと申し上げ、ようやくお引き取り願いました。

それから今日までに、2度3度と顔を見せられ、ビラ撒き計画の進捗状況を報告していかれます。今日は、目黒署に行き、西口でビラを撒く許可をもらってきたと意気軒昂。

「誰か一人くらい支持者が現れないかなあ」「暇でやることないし、何もしないで家にいても仕方ないからね」

「いちいち報告に来なくてもいいですよ」と申し上げたのですが、まるで意に介しておられないご様子でした。

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2018年02月09日

悲しい落札

明治古典会、先週ほどではありませんが、やはり荷は少な目。一応、3階4階2フロアを使用しての開催でしたが、4階の半ば近くは本以外のもので埋まっておりました。

特に驚いたのは様々な形状のグラスや瓶類、果てはペーパーウェイトに至るまで、各種ガラス器が何十という数、並んでいるさま。「とても本屋の市には見えない」と、何人もの同業が口にしていました。

ただこのガラス器は、最近立て続けに出品されている、ある個人蔵書家のコレクションで、本と一緒に引き取ってきたものとか。

本の方は、これまでに結構高価な版画集とか、状態の良い初版本などが出品され、高値になっていましたが、今日のガラス器は、さほど値が付かず、ほとんど一人の業者さんが買い占めておられたようです。

RIMG2601目の利く業者がいなかったのかもしれませんし、持ち主のほうに、本に対するほどの収集眼がなかったのかもしれません。いずれにせよ荷主さんには、期待外れだったことでしょう。

店主について申しますと、今日の市で2点を落札することができたのですが、嬉しいと言うより、悲しいと言ったほうが良いような結果でした。

演劇関係の5本口は、中に数冊、欲しい本があったので、ほぼその評価だけで入札したのですが、他に誰も入札者がなく下札で落札。もう1点も似たようなもの。

これを悲しいというのは、つまりは小店の在庫も、市場に出せば似たような評価しか得られない可能性があることを意味するからです。

店に戻り、じっと棚を見つめてしまいました。

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12月31日から1月3日まで
休業いたします
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河野書店

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