2018年08月
2018年08月21日
友人の個展
名古屋の友人が、東京で個展を開くから、見に来てほしいというハガキをよこしました。一月ほど前のことです。
初日の夕方、オープニングパーティーを催すので、出来ればそれに参加してほしいと。
個展と言っても無名画家の小さな作品展です。半年近く船に乗って世界一周という旅の、絵の講師として乗り組んだ、折々のスケッチをもとにした水彩作品。大学は東京だったとはいえ、卒業後はずっと地元名古屋暮らし。どれほど動員できるかは、まったく未知数。
いくらか心細さもあったのでしょう。別の日に、ゆっくり顔を出すという店主に、少しでもにぎやかにしたいから、ぜひ初日にと言います。
それが今日でした。朝から古書会館へ出かけ、午前中は会議。午後から東京洋書会。幸いなことに、などと言ってはいけませんが、出品の量もそれほど多くなく、店主の入札すべき本も、ほぼありませんでしたので、市場も早く終わり、片付けも手早く済ませることができました。
すぐ店にとってかえし、車で家に戻り、ガレージに納めてから個展会場へ出発。バスと電車を乗り継いで約1時間。
会場は浅草駅を出て吾妻橋を渡ったところにある、ギャラリー・アビアント。近くまで行ってから、見つけるのに少し苦労したほどの、こじんまりしたスペースです。
しかし着いてみると、ちいさな画廊は人で溢れかえらんばかり。その人の多さのためか、クーラーが効かず、なんとも蒸し暑い。そのなかで友人はビールのコップ片手に、少し顔を赤くさせながら、次々に来客と話をしております。
そんな様子を30分ほど眺め、もちろん壁に飾られた彼の作品も一回り観賞して、引き上げることにいたしました。彼にはまだ、お相手すべきゲストも、大勢いたのですから。
浅草が東の果てとは申しませんが、我が家はほどんど西の果て。行って帰って、長い道中でしたが、楽し気な友人の姿を見たことで、報われた思いの一日でした。
初日の夕方、オープニングパーティーを催すので、出来ればそれに参加してほしいと。
個展と言っても無名画家の小さな作品展です。半年近く船に乗って世界一周という旅の、絵の講師として乗り組んだ、折々のスケッチをもとにした水彩作品。大学は東京だったとはいえ、卒業後はずっと地元名古屋暮らし。どれほど動員できるかは、まったく未知数。
いくらか心細さもあったのでしょう。別の日に、ゆっくり顔を出すという店主に、少しでもにぎやかにしたいから、ぜひ初日にと言います。
それが今日でした。朝から古書会館へ出かけ、午前中は会議。午後から東京洋書会。幸いなことに、などと言ってはいけませんが、出品の量もそれほど多くなく、店主の入札すべき本も、ほぼありませんでしたので、市場も早く終わり、片付けも手早く済ませることができました。
すぐ店にとってかえし、車で家に戻り、ガレージに納めてから個展会場へ出発。バスと電車を乗り継いで約1時間。
会場は浅草駅を出て吾妻橋を渡ったところにある、ギャラリー・アビアント。近くまで行ってから、見つけるのに少し苦労したほどの、こじんまりしたスペースです。
しかし着いてみると、ちいさな画廊は人で溢れかえらんばかり。その人の多さのためか、クーラーが効かず、なんとも蒸し暑い。そのなかで友人はビールのコップ片手に、少し顔を赤くさせながら、次々に来客と話をしております。
そんな様子を30分ほど眺め、もちろん壁に飾られた彼の作品も一回り観賞して、引き上げることにいたしました。彼にはまだ、お相手すべきゲストも、大勢いたのですから。
浅草が東の果てとは申しませんが、我が家はほどんど西の果て。行って帰って、長い道中でしたが、楽し気な友人の姿を見たことで、報われた思いの一日でした。
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2018年08月20日
アレサと丸栄
アレサ・フランクリン死去の報を新聞で読んで、古い友人のことを思い出しました。
アレサというと、店主がまず思い出す歌は「小さな願い」(I say a little prayer)ですが、これを初めて聞いたのが中学、高校と同級だった、その友人の家だったのです。
それで、ではいつ頃のことだったのだろうかとLPの発売時期などを調べてみたところ、意外にも1968年より後のことだと分かりました。
となると店主も友人もすでに大学生。こちらは京都で、彼は東京で、それぞれ学生の日々を送っていたはずです。夏か春かの長い休みの間に、彼の家を訪ねたのでしょうか。
二階にあった彼の部屋が鮮明に思い浮かぶのですが、いくつかの記憶がごちゃ混ぜになっている可能性はあります。何しろ半世紀も前のことになるのですから。
ことさらにこの話を持ち出したのは、しばらく前、偶然にあるTV番組を目にして、やはり彼のことを思い出す機会があったからです。
どこかしらの百貨店が店を閉じる、その最後の3日ほどを追った番組でした。しばらく見ているうちに、時おり混じる中京地方のイントネーションに気づき、やがてその店が「丸栄」だと分かりました。
その「丸栄」こそは、東京の大学を卒業した彼が、新卒として入社し、定年まで勤めあげた(はずの)会社です。
社会人になってからの彼とは、数えるほどしか会っていません。長らく音信が絶えて久しい。もう一度、連絡を取ってみろという、何かのお告げでしょうか。
アレサというと、店主がまず思い出す歌は「小さな願い」(I say a little prayer)ですが、これを初めて聞いたのが中学、高校と同級だった、その友人の家だったのです。
それで、ではいつ頃のことだったのだろうかとLPの発売時期などを調べてみたところ、意外にも1968年より後のことだと分かりました。
となると店主も友人もすでに大学生。こちらは京都で、彼は東京で、それぞれ学生の日々を送っていたはずです。夏か春かの長い休みの間に、彼の家を訪ねたのでしょうか。
二階にあった彼の部屋が鮮明に思い浮かぶのですが、いくつかの記憶がごちゃ混ぜになっている可能性はあります。何しろ半世紀も前のことになるのですから。
ことさらにこの話を持ち出したのは、しばらく前、偶然にあるTV番組を目にして、やはり彼のことを思い出す機会があったからです。
どこかしらの百貨店が店を閉じる、その最後の3日ほどを追った番組でした。しばらく見ているうちに、時おり混じる中京地方のイントネーションに気づき、やがてその店が「丸栄」だと分かりました。
その「丸栄」こそは、東京の大学を卒業した彼が、新卒として入社し、定年まで勤めあげた(はずの)会社です。
社会人になってからの彼とは、数えるほどしか会っていません。長らく音信が絶えて久しい。もう一度、連絡を取ってみろという、何かのお告げでしょうか。
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2018年08月19日
話題の件にひと言
高知県立大学図書館の除籍本焼却処分問題が、ずいぶん世間で話題になっているようです。
今ごろ何を言っているかと言われそうですが、ニュースに疎い店主としては、昨日初めて耳にしたところ。それも処分自体よりも、その是非をめぐってネット上が喧(かまびす)しいという話を。
そこで今日になってネットを検索し、事情を追ってみました。すると、当の大学から謝罪文まで出て、一件落着ムードです。今さら店主が口を出すこともなさそうですので、見た限りで一番納得できた意見をご紹介しておきます。
高知県立大焚書記事問題を元大学図書館の人視点からという匿名ブログです。これにさらに何か付け加えるような見識も、店主にはありません。
ただ、いろいろな意見を読んでみて、あらためて気になったのは、図書館の本が古本として流通していることに、違和感を持つ人が少なくなっているように思えることです。
個研費購入図書などに押された学校印ではなく、図書館として受け入れた印のある本に関しては、今でも除籍印や除籍証明がない限り、市場で古書として売買は出来ません。もちろん現存する図書館についてですが。
図書館が本を廃棄するなど考えもつかなかった時代、盗難や紛失を防ぐため、大きな印やラベルが、あちこちに押され貼られました。その上にでかでかと「廃棄」「除籍」「抹消」などという印を押して、初めて払い下げが可能とされたのです。
その仕組み自体は今も変わっていないはず。図書館印が押され、図書記号なども記入された本で、廃棄印がない場合、まずその図書館が今も存在するかどうか、確かめてみる必要があると思います。
今ごろ何を言っているかと言われそうですが、ニュースに疎い店主としては、昨日初めて耳にしたところ。それも処分自体よりも、その是非をめぐってネット上が喧(かまびす)しいという話を。
そこで今日になってネットを検索し、事情を追ってみました。すると、当の大学から謝罪文まで出て、一件落着ムードです。今さら店主が口を出すこともなさそうですので、見た限りで一番納得できた意見をご紹介しておきます。
高知県立大焚書記事問題を元大学図書館の人視点からという匿名ブログです。これにさらに何か付け加えるような見識も、店主にはありません。
ただ、いろいろな意見を読んでみて、あらためて気になったのは、図書館の本が古本として流通していることに、違和感を持つ人が少なくなっているように思えることです。
個研費購入図書などに押された学校印ではなく、図書館として受け入れた印のある本に関しては、今でも除籍印や除籍証明がない限り、市場で古書として売買は出来ません。もちろん現存する図書館についてですが。
図書館が本を廃棄するなど考えもつかなかった時代、盗難や紛失を防ぐため、大きな印やラベルが、あちこちに押され貼られました。その上にでかでかと「廃棄」「除籍」「抹消」などという印を押して、初めて払い下げが可能とされたのです。
その仕組み自体は今も変わっていないはず。図書館印が押され、図書記号なども記入された本で、廃棄印がない場合、まずその図書館が今も存在するかどうか、確かめてみる必要があると思います。
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2018年08月18日
狭き門より入れ
朝、店に着くと、お隣のコンビニ前に、スーツ姿の若者が大勢たむろしておりました。
いわゆるリクルートスタイル。男子は白シャツ黒スーツにネクタイ、女子は黒スーツ白ブラウス。ほとんど判で押したよう。
今日は土曜日ですから、おそらく駒場キャンパスで何かの試験があるのでしょう。その試験の種類によって、受験者の様子がまるで違います。
語学検定試験の時などは、服装も思い思いですが、年齢層が幅広いのが特徴。不動産鑑定士試験も年齢幅が広いのですが、若者は少ない。男性の、それも働き盛りといった年齢の人が、昼食らしきレジ袋を提げて会場へ向かう姿が目立ったのは、電気工事士試験。
今日の試験で特徴的なのは、そのスーツス姿もともかく、年齢が若いこと。まだ高校生ではないかと思えるほど。かと思うと、少し年かさの人の姿もありました。
後から分かったところでは、参議院事務局職員(一般職)の採用試験だったそうです。参議院のホームページで調べてみたところ、受験資格は平成9年4月2日から平成13年4月1日までに生まれた者。確かに、ほとんどが高校3年生だったというわけです。
それにしても第1次試験はペーパーテストだけのはずなのに、なぜ揃ってスーツなのでしょう。HPには※8月18日(土)の試験を受験予定の皆様へ 当日は相当程度の気温の上昇が見込まれますので、軽装でお越しください。また、こまめに水分補給を行うなど体調管理にお気を付けください。と注意書きがありました。
午後、試験を終えて帰る何組かのグループが店の前を通りすぎ、上着なしも案外多いことが分かって少しホッとしました。今日はずいぶん楽な気候ではありましたが。
参議院のHPには、過去5年の実施結果が表になって掲載されております。そこにはH29年度申込者数1540名、合格者数11名とありました。
いわゆるリクルートスタイル。男子は白シャツ黒スーツにネクタイ、女子は黒スーツ白ブラウス。ほとんど判で押したよう。
今日は土曜日ですから、おそらく駒場キャンパスで何かの試験があるのでしょう。その試験の種類によって、受験者の様子がまるで違います。
語学検定試験の時などは、服装も思い思いですが、年齢層が幅広いのが特徴。不動産鑑定士試験も年齢幅が広いのですが、若者は少ない。男性の、それも働き盛りといった年齢の人が、昼食らしきレジ袋を提げて会場へ向かう姿が目立ったのは、電気工事士試験。
今日の試験で特徴的なのは、そのスーツス姿もともかく、年齢が若いこと。まだ高校生ではないかと思えるほど。かと思うと、少し年かさの人の姿もありました。
後から分かったところでは、参議院事務局職員(一般職)の採用試験だったそうです。参議院のホームページで調べてみたところ、受験資格は平成9年4月2日から平成13年4月1日までに生まれた者。確かに、ほとんどが高校3年生だったというわけです。
それにしても第1次試験はペーパーテストだけのはずなのに、なぜ揃ってスーツなのでしょう。HPには※8月18日(土)の試験を受験予定の皆様へ 当日は相当程度の気温の上昇が見込まれますので、軽装でお越しください。また、こまめに水分補給を行うなど体調管理にお気を付けください。と注意書きがありました。
午後、試験を終えて帰る何組かのグループが店の前を通りすぎ、上着なしも案外多いことが分かって少しホッとしました。今日はずいぶん楽な気候ではありましたが。
参議院のHPには、過去5年の実施結果が表になって掲載されております。そこにはH29年度申込者数1540名、合格者数11名とありました。
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2018年08月17日
かつて学生がいた
「ツイートされてるよ、著者の方みたい」と、娘がLINEで知らせてきました。
店主自身はツイートをいたしませんが、毎日のブログ更新が自動的にツイートされるよう、以前に娘たちが設定してくれています。
そこにはブログタイトルが表示されます。数日前の『東大駒場寮物語』というタイトルに対し、「河野書店さん、数えきれないほどお邪魔しました」とあったそうです。
なるほどご本人かもしれません。取り上げた当事者から反応をいただくのは、珍しいことではありませんが、その度に冷汗が出ます。何か失礼なことを書いていなかったか、慌てて読み返すこともあります。
今回については、最後の物欲しげなひとこと以外は、ご不興を買うようなことはなかったはずと、ひとまず胸をなでおろしました。
かりにこれが著者ご本人のツイートだとすると、お越しいただいたのは駅からすぐ下に見えた、以前の小さな店だったでしょう。15年前、現在の場所に引っ越すとき、この本にも登場する小池龍之介さんが、お手伝いくださったことを思い出します。
駒場寮には1、2度、本を引き取りに伺ったこともあり、読むうちに寮内の様子が浮かんできました。
また別に、自分の思い違いに気づかされた点もあります。開業間もないころ、夜10時まで営業していたことがあり、銭湯帰りの学生さんがよく立ち寄ったのですが、なぜか彼らを寮生さんたちだと思い込んでいました。
寮には大きなお風呂があったという話、考えてみれば当然で、過去に聞いてもいるはず。むしろアパート住まいの方が、銭湯を必要としたのは明らかです。このあたりに次々とワンルームマンションが建っていったのは、いつ頃からでしょうか。
店主自身はツイートをいたしませんが、毎日のブログ更新が自動的にツイートされるよう、以前に娘たちが設定してくれています。
そこにはブログタイトルが表示されます。数日前の『東大駒場寮物語』というタイトルに対し、「河野書店さん、数えきれないほどお邪魔しました」とあったそうです。
なるほどご本人かもしれません。取り上げた当事者から反応をいただくのは、珍しいことではありませんが、その度に冷汗が出ます。何か失礼なことを書いていなかったか、慌てて読み返すこともあります。
今回については、最後の物欲しげなひとこと以外は、ご不興を買うようなことはなかったはずと、ひとまず胸をなでおろしました。
かりにこれが著者ご本人のツイートだとすると、お越しいただいたのは駅からすぐ下に見えた、以前の小さな店だったでしょう。15年前、現在の場所に引っ越すとき、この本にも登場する小池龍之介さんが、お手伝いくださったことを思い出します。
駒場寮には1、2度、本を引き取りに伺ったこともあり、読むうちに寮内の様子が浮かんできました。
また別に、自分の思い違いに気づかされた点もあります。開業間もないころ、夜10時まで営業していたことがあり、銭湯帰りの学生さんがよく立ち寄ったのですが、なぜか彼らを寮生さんたちだと思い込んでいました。
寮には大きなお風呂があったという話、考えてみれば当然で、過去に聞いてもいるはず。むしろアパート住まいの方が、銭湯を必要としたのは明らかです。このあたりに次々とワンルームマンションが建っていったのは、いつ頃からでしょうか。
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2018年08月16日
間違いの喜劇
「日本の古本屋」には自店在庫管理システム(ZIZAI)というものがあって、それには書籍を登録する際の入力支援アプリも備わっています。
膨大な書誌データベースを参照できる仕組みで、日本書だけでなく洋書もかなりの割合で、必要な情報を直接引用することができます。
これで登録作業が、どれほど助かっているかしれません。しかしあまり頼りすぎて、失敗をすることもあります。最近あった例。
お電話で「キョウノマチヤ」は在庫しているかと、お問い合わせがありました。「京の町屋」と変換されて、検索すると1冊ヒットしました。在庫も確認し、折り返し「ございます」とお返事。後ほど取りに来られるとのことで、帳場に用意しておきました。
やがてご来店になったお客様にお渡しすると、怪訝なお顔で「これじゃないです」とおっしゃいます。焦りました。確かヒットしたのは1点だけ。しかしお客様は「日本の古本屋」で、小店にあるとお知りになったのです。
種を明かしますと『京の町家』(長沢英俊作品・文)が、お客様のお求めの本でした。幸いなことに、お尋ねの本もすぐ見つかって、無事お渡しすることができました。
小店のご用意したのは、鹿島研究所出版会のSD選書。しかし良く見るとこの本も、正しいタイトルは『京の町家』です。それが小店ではなぜ『京の町屋』で登録されていたのでしょう。
実は間違ったデータが存在していたのです。CiNiiで検索すると、某大学図書館がこのタイトルで登録したことが分かりました。小店で入力する際に「町屋」と打って、それでヒットした書誌情報を引用したのが、今回の「間違いの喜劇」の原因でした。
悲劇にならなくてよかった。
膨大な書誌データベースを参照できる仕組みで、日本書だけでなく洋書もかなりの割合で、必要な情報を直接引用することができます。
これで登録作業が、どれほど助かっているかしれません。しかしあまり頼りすぎて、失敗をすることもあります。最近あった例。
お電話で「キョウノマチヤ」は在庫しているかと、お問い合わせがありました。「京の町屋」と変換されて、検索すると1冊ヒットしました。在庫も確認し、折り返し「ございます」とお返事。後ほど取りに来られるとのことで、帳場に用意しておきました。
やがてご来店になったお客様にお渡しすると、怪訝なお顔で「これじゃないです」とおっしゃいます。焦りました。確かヒットしたのは1点だけ。しかしお客様は「日本の古本屋」で、小店にあるとお知りになったのです。
種を明かしますと『京の町家』(長沢英俊作品・文)が、お客様のお求めの本でした。幸いなことに、お尋ねの本もすぐ見つかって、無事お渡しすることができました。
小店のご用意したのは、鹿島研究所出版会のSD選書。しかし良く見るとこの本も、正しいタイトルは『京の町家』です。それが小店ではなぜ『京の町屋』で登録されていたのでしょう。
実は間違ったデータが存在していたのです。CiNiiで検索すると、某大学図書館がこのタイトルで登録したことが分かりました。小店で入力する際に「町屋」と打って、それでヒットした書誌情報を引用したのが、今回の「間違いの喜劇」の原因でした。
悲劇にならなくてよかった。
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2018年08月15日
平岩ファン
「入った?入んない?まあだ入んないの?なかなか入んないね。もう入んないかね」
少し北関東なまりでこうお尋ねなのは、平岩弓枝ファンのおばちゃん。ご婦人などといっては、しっくりきません。勝手にそう呼ばせていただきます。
もう何年越しのお通いでしょうか、いつもお目当ては平岩弓枝の文庫本です。文庫本でなくとも構わないようですが、単行本だって、いやむしろ単行本のほうが滅多に入ってきません。
過去に何度か、まとまって入荷したことがあり、そんな時にせっせとお求めいただいたようです。しかし何しろ数年にわたってご来店いただいていますから、小店の平岩さんは、あらかたおばちゃんに買いつくされている勘定。
平岩さんが、いったい何冊の本を出しておられるのか存じませんが、書くペースより読むペースの方が早いことは明らかですから、もうほとんどの作品を読んでしまわれたのではないでしょうか。
そうおばちゃんに訊きますと「いやまだまだ。たあくさん読んでないのがあるよ」。
しかし、古本として出回ってくるような本は、どうしても限られてきます。それ以前に、望んだからといって入ってこないのが古本です。そのあたりの事情は、何度も空振りを繰り返すうち、次第に理解していただいたようです。
それで冒頭のような、お尋ねとなるわけです。店の表から「今日もやっぱりダメ?」というように。
ところが今日は、お客様からお引き取りしたばかりの、3冊の平岩さんがありました。店主が思うには、すでに読まれた本である可能性が高い。しかしご覧に入れれば、きっとお求めになるだろう。
そこへおばちゃん登場です。「見たことないよ。いや読んだかなあ」そう言いながら、案の定、お買い上げになって帰られました。
少し北関東なまりでこうお尋ねなのは、平岩弓枝ファンのおばちゃん。ご婦人などといっては、しっくりきません。勝手にそう呼ばせていただきます。
もう何年越しのお通いでしょうか、いつもお目当ては平岩弓枝の文庫本です。文庫本でなくとも構わないようですが、単行本だって、いやむしろ単行本のほうが滅多に入ってきません。
過去に何度か、まとまって入荷したことがあり、そんな時にせっせとお求めいただいたようです。しかし何しろ数年にわたってご来店いただいていますから、小店の平岩さんは、あらかたおばちゃんに買いつくされている勘定。
平岩さんが、いったい何冊の本を出しておられるのか存じませんが、書くペースより読むペースの方が早いことは明らかですから、もうほとんどの作品を読んでしまわれたのではないでしょうか。
そうおばちゃんに訊きますと「いやまだまだ。たあくさん読んでないのがあるよ」。
しかし、古本として出回ってくるような本は、どうしても限られてきます。それ以前に、望んだからといって入ってこないのが古本です。そのあたりの事情は、何度も空振りを繰り返すうち、次第に理解していただいたようです。
それで冒頭のような、お尋ねとなるわけです。店の表から「今日もやっぱりダメ?」というように。
ところが今日は、お客様からお引き取りしたばかりの、3冊の平岩さんがありました。店主が思うには、すでに読まれた本である可能性が高い。しかしご覧に入れれば、きっとお求めになるだろう。
そこへおばちゃん登場です。「見たことないよ。いや読んだかなあ」そう言いながら、案の定、お買い上げになって帰られました。
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2018年08月14日
『スターリンの葬送狂騒曲』
今朝の交通量は並の休日以下。環七あたりはともかく、淡島通りに入ると、ほとんど車の影がありませんでした。
昨日から小店は、無人島で店を開いているような気分。まあ、売り上げゼロだったわけではないので、無人島でないことは確かめられましたが。
会館が夏期休館に入っていることは、すでにお知らせしたとおり。つまり今日は火曜日ですが、洋書会もお休み。
そこで家人らは、店主に強く骨休めをすすめます。たまには映画にでも行って来たらどうか、というのです。店主に代わって、観る映画まで選んでくれました。
それが『スターリンの葬送狂騒曲』。映画館は渋谷ロフト近くのシネクイント。上映時間も午後1時半からの回なら、いつも洋書会に出かけている時間帯。もちろん内容的にも、今上映中の映画では、一番店主に向いていると思える。
そこまでプランされては、腰を上げざるを得ません。映画自体にはあまり期待せず、気分転換になればいいくらいのつもりで出かけました。
考えてみれば一人で映画館に行くなどというのは、何十年ぶりかのことです。予測したとおり、さほど混んでもおらず、ゆっくり観ることができました。
さて、映画自体はどうだったかと言えば、漠然と想像していたドタバタ喜劇とは、かなり様相が違いました。もっと笑わせてくれるものかと思っていたのですが。
しかし、つまらなかったという意味ではありません。深入りすると、これからご覧になる方の興趣をそいでしまう恐れがありますから、これ以上はやめておきましょう。たしかにブラック・コメディではありました。
昨日から小店は、無人島で店を開いているような気分。まあ、売り上げゼロだったわけではないので、無人島でないことは確かめられましたが。
会館が夏期休館に入っていることは、すでにお知らせしたとおり。つまり今日は火曜日ですが、洋書会もお休み。
そこで家人らは、店主に強く骨休めをすすめます。たまには映画にでも行って来たらどうか、というのです。店主に代わって、観る映画まで選んでくれました。
それが『スターリンの葬送狂騒曲』。映画館は渋谷ロフト近くのシネクイント。上映時間も午後1時半からの回なら、いつも洋書会に出かけている時間帯。もちろん内容的にも、今上映中の映画では、一番店主に向いていると思える。
そこまでプランされては、腰を上げざるを得ません。映画自体にはあまり期待せず、気分転換になればいいくらいのつもりで出かけました。
考えてみれば一人で映画館に行くなどというのは、何十年ぶりかのことです。予測したとおり、さほど混んでもおらず、ゆっくり観ることができました。
さて、映画自体はどうだったかと言えば、漠然と想像していたドタバタ喜劇とは、かなり様相が違いました。もっと笑わせてくれるものかと思っていたのですが。
しかし、つまらなかったという意味ではありません。深入りすると、これからご覧になる方の興趣をそいでしまう恐れがありますから、これ以上はやめておきましょう。たしかにブラック・コメディではありました。
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2018年08月13日
本から紙幣
森鷗外の『ギヨオテ傳 』。といっても戦後、昭和23年に出た鱒書房版。それもカバーヤケイタミ欠損あり、本体ヤケ、小口にツカレ。さらにカバーにも見返しにも蔵印。
そればかりか、見返しには文字を消したというより、削ったあと。本文にも線引きがみられるなど、要するに古書としては、ほとんど値をつけられない本。
均一にでも投げ込んでおけば、物好きな方が、面白がってお買い上げくださる可能性がゼロではない。
そんな本の話を始めたのは、パラパラと頁を繰っていて、ふと何か挟まっているのが目に留まったからです。挟まっていたのは板垣退助の50銭紙幣2枚、いわゆる少額政府紙幣とよばれるもの。
蔵書印などから見て、少なくとも三名以上の持ち物となったはずのこの本、しかもしっかり読まれた痕跡もあるのに、ずっとそのまま挟まれていたことになります。誰がいつ挟んだのか。
板垣紙幣が発行されたのは昭和23年3月、廃止されたのは28年12月。最初の持ち主は、23年6月に神田で求めたと、見返しに記しています。彼でしょうか?
実は見返しにはもうひとつ、’50 May 27th 伊勢崎三光堂という表記があり、これが二番目の持ち主と思われます。どうやら彼らしい。
その次の持ち主の手に渡ったときは、すでに紙幣としての価値はなくなっていたのでしょう。それでそのまま、栞代わりに挟まれていたのかもしれません。激しいインフレの時代ですから、使えたとしても今の1円とか5円といった感じでしょうか。
一方『ギヨオテ伝』の定価は180円。ある資料によれば、昭和23年の小学校教員の初任給は2千円。本は、ずいぶん高価なものであったわけです。
そればかりか、見返しには文字を消したというより、削ったあと。本文にも線引きがみられるなど、要するに古書としては、ほとんど値をつけられない本。
均一にでも投げ込んでおけば、物好きな方が、面白がってお買い上げくださる可能性がゼロではない。
そんな本の話を始めたのは、パラパラと頁を繰っていて、ふと何か挟まっているのが目に留まったからです。挟まっていたのは板垣退助の50銭紙幣2枚、いわゆる少額政府紙幣とよばれるもの。
蔵書印などから見て、少なくとも三名以上の持ち物となったはずのこの本、しかもしっかり読まれた痕跡もあるのに、ずっとそのまま挟まれていたことになります。誰がいつ挟んだのか。
板垣紙幣が発行されたのは昭和23年3月、廃止されたのは28年12月。最初の持ち主は、23年6月に神田で求めたと、見返しに記しています。彼でしょうか?
実は見返しにはもうひとつ、’50 May 27th 伊勢崎三光堂という表記があり、これが二番目の持ち主と思われます。どうやら彼らしい。
その次の持ち主の手に渡ったときは、すでに紙幣としての価値はなくなっていたのでしょう。それでそのまま、栞代わりに挟まれていたのかもしれません。激しいインフレの時代ですから、使えたとしても今の1円とか5円といった感じでしょうか。
一方『ギヨオテ伝』の定価は180円。ある資料によれば、昭和23年の小学校教員の初任給は2千円。本は、ずいぶん高価なものであったわけです。
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2018年08月12日
紛失本の鬱屈
昨日、お電話をいただきました。
「スマホで見て知ったのですが、そちらに中島岳志という人の書いた『朝日平吾の鬱屈』という本があるそうですが、まだありますか?」
記憶にはありましたが、鉄則に従って一旦電話を切っていただき、本を見つけて帳場まで戻り、こちらから折り返しかけなおしました。
「在庫しております」そう申し上げると「本当ですか!」と、喜びの声。「明日もやっておられますね。午前10時から午後6時までとありますが」「やっております」「では午後には必ず伺いますから、取っておいていただけますか」「承知いたしました」
「駒場東大前の駅から歩いてどれくらいのところですか」「1分です」「それはありがたい」「駅はご存知ですか」「私は70歳になりますが、学生のころしか知りません」
そこで、駅には二方向に出口があること。吉祥寺寄りの改札を出ること。出て左に、線路に沿って歩いていただくことを説明いたしましたところ「分かりました。実は図書館で借りて紛失してしまったのです」そう言って電話が切られました。
約束通り本日お越しになり、お買い上げいただきましたが「この本、新刊書店に頼んだら品切れと言われて…」と、まさにご自身の鬱屈をひとくさり。「お金で弁償すると言ったんですが、図書館は同じものを返すというのが決まりらしいです」
実は店主も、同書が現在、版元品切れ中であるという情報は知っておりました。良い状態の本でしたので、新刊定価でネットに載せておいたのです。どこかのサイトでよくあるように、とんでもない値段の本しかなかったとしたら、どうされたでしょうか。
「スマホで見て知ったのですが、そちらに中島岳志という人の書いた『朝日平吾の鬱屈』という本があるそうですが、まだありますか?」
記憶にはありましたが、鉄則に従って一旦電話を切っていただき、本を見つけて帳場まで戻り、こちらから折り返しかけなおしました。
「在庫しております」そう申し上げると「本当ですか!」と、喜びの声。「明日もやっておられますね。午前10時から午後6時までとありますが」「やっております」「では午後には必ず伺いますから、取っておいていただけますか」「承知いたしました」
「駒場東大前の駅から歩いてどれくらいのところですか」「1分です」「それはありがたい」「駅はご存知ですか」「私は70歳になりますが、学生のころしか知りません」
そこで、駅には二方向に出口があること。吉祥寺寄りの改札を出ること。出て左に、線路に沿って歩いていただくことを説明いたしましたところ「分かりました。実は図書館で借りて紛失してしまったのです」そう言って電話が切られました。
約束通り本日お越しになり、お買い上げいただきましたが「この本、新刊書店に頼んだら品切れと言われて…」と、まさにご自身の鬱屈をひとくさり。「お金で弁償すると言ったんですが、図書館は同じものを返すというのが決まりらしいです」
実は店主も、同書が現在、版元品切れ中であるという情報は知っておりました。良い状態の本でしたので、新刊定価でネットに載せておいたのです。どこかのサイトでよくあるように、とんでもない値段の本しかなかったとしたら、どうされたでしょうか。
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