2018年09月

2018年09月30日

得した読書

9月17日の本ブログに、訂正があります。伝法院通りにある古本屋の「店主のオバハン」について。

書いている時から、どうも勘定が合わない気がして、折があれば確かめようと顔を合わす機会を待っていたところ、この間の明治古典会で現店主のTさんを見つけました。

「お母さんおいくつ?」と、いきなり妙な質問を切り出してから、怪訝な顔をするTさんにわけを話し、答えを聞くことができたのです。

そして分かったのは、その「オバハン」は、Tさんの母上ではなく、父上のお姉さん、つまり伯母さんであったらしいということ。それで店主も納得できました。いくら「タイちゃん」でも、いや、だからこそ40歳そこそこの女性をオバハン呼ばわりはしない筈。

ようやく胸のつかえがとれたところで「タイちゃん」の話をもう少し。

例によってあちこち山積みになっている本の中に『正伝殿山泰司 三文役者の死』(新藤兼人、岩波書店同時代ライブラリー、1991年)を見つけました。

多少カバーなどにイタミがあるので、安めの値をつけて棚に並べようかと頁をめくったところ、タイトル頁の裏に著者のペン書き献呈署名。

献呈先は、すでに故人となられた映画監督。店主はそのお名前も存じ上げず、Wikiで知りました。となると、どこかの市場で落札した、文庫の山の中にでも入っていた1冊だと思われます。売り物にするのをやめ、日本映画ファンの娘にやることにしました。

tonoyamaその前に、と読み始めると、これがめっぽう面白い。「タイちゃん」自身も面白いのですが、それを語る「カントク」の文章が実にテンポよく、読ませます。さすがに鍛え上げられたシナリオライターの筆。

とても得した気分になれました。

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2018年09月29日

売れるでしょうか

先日、久しぶりにお電話をいただいて、M先生の蔵書をお引き取りしてまいりました。

まず先生のご自宅に伺って、そこで少し積み込み、ご一緒に学校まで行って、さらに積み込むという段取り。

以前にも同様のコースをとったことはありますし、ご自宅の本は「それほど多くない」とのことでしたので承知したのですが、いざ伺うと、そこだけで小店の小型車は、7割方埋まってしまいました。

それでも予定通り日吉にある研究室へ向かい、残りスペースと荷重を見計らいながら積み込んで、店に戻りました。

戻って荷を降ろし、紐をほどいて改めて見ていきますと、案の定、ご自宅にあった本の多数に耳折、線引き。これはと思うような本には、まず間違いなく。

もう20年近いお付き合いなので、重々承知しているのですが、それでもこれなら大丈夫だろうと思うようなきれいな本にまで、ボールペンの線が走っているのを見つけると、思わず力が抜けます。

研究室の本には、比較的線引きがありませんでした。なかでも、今回まとめてお出しいただいたのはビートルズ関連の洋書と和書。

RIMG3216年間講義で取り上げたと、以前に伺いましたので、その時の参考資料でしょう。ほとんどが近年の刊行で、しかもきれいな状態です。

大量部数出版で見た目より定価が安く、大型本、厚い本が多いため、あまりネット販売には向きません。そこで洋書については、この秋の「洋書まつり」に並べてみようかと考えております。

今年の「洋書まつり」は11月9日・10日の開催です。

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2018年09月28日

検閲という制度

戦前の検閲制度というものに興味が湧いて、少しばかりネットで調べたりして見ました。

そして見つけたのが、国立国会図書館デジタルコレクションの中にある 内務省検閲発禁図書というページ。

第2次世界大戦後接収され、米・ワシントン・ドキュメント・センターを経てLC(米国議会図書館)に移管された、戦前の日本の内務省が検閲した書籍やゲラ等1,327点を、国立国会図書館(NDL)と(LCとが)共同でデジタル化したもの(同図書館「カレントアウェアネス・ポータル」より)だとか。

そんなことを調べてみる気になったきっかけは、店にあった『近代日本文学大系』(国民文庫、大正13年〜)第21回配本「為永春水集」の、月報に目が留まってのこと。見出しに「落語滑稽本全集発売禁止」その脇に「頻々として手厳しい発禁沙汰」とあります。

先を読むと、これが4回目の発禁であり、ただ「今までのは、禁止とは申しながら幸ひに配本後でありましたから、会員諸賢にはご迷惑はかかりませんでしたが」この先は事前に差し止められる恐れもあるので、「一層慎重の度を加へて編輯する」旨が書かれています。

RIMG3175聞くところによれば、こうしたいわば手ぬるい発禁は、いわゆる軟派ものに対する処置で、こと思想的なものに対しては、もっと厳しい網がかけられたようです。

今日の明治古典会に、萩原朔太郎の『月に吠える』(感情詩社・白日社、大正6年、削除版)が出ておりました。こちらは発禁を免れるために、本文1葉を削除したことで知られています。

なまじ製本の遅れで出荷されていなかっために、対応できてしまったわけですが、上記の例からして、すでに発売されていたとしても、回収までは命ぜられなかったかもしれません。

それにしても、無削除版というのは、一体何部存在しているのでしょう。

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2018年09月27日

魔が差す

「おめでとうございます!Googleをお使いのあなた!」当選者に選ばれました――こんな通知が、Google画面を開いたとたんに現れました。

実は初めてのことではありません。最初の経験は一月ほども前、古書会館の6階に置かれている、組合員が自由に使えるPCでのこと。

それも店主が操作していたPCではなく、向かい側で同業が操作していたPCに現れたのです。「不思議な画面が出てきたんだけど、どうしたらいい?」と、驚いたように店主に尋ねてきました。

店主より、さらにPCに疎い同業です。「何かに当選して、あと1分ちょっとのうちに押さないと無効になるらしい」

話を聞いただけで、わざわざ画面を覗きにも行かないまま「そんなバカな話はないから、急いで消した方がいい」と答えると、「それもそうだな」と納得して、すぐに画面を消していました。

次はそれより数日あと、今度は店のPCに出現しました。実際に見たのはそれが初めてですが、なるほどこれのことかと、無視して他の作業をするうちに、ポップアップが消えたような記憶があります。

3回目が今日のことで、前回とは別のPCです。すぐポップアップを消そうとしたのですが、消えてくれません。そのうちふと画面に目をやると、実によくできています。今まではポップアップばかり見て、画面の方はろくに見てもいませんでした。

RIMG3196そこでつい、魔が差したようにボタンを押し、誰でも分かるクイズまでやってしまったのです。しかし商品を選ぶ画面が出たところで、さすがに愚かしさに気づいて画面を消し、改めてGoogle検索で調べてみました。

注意を促すサイトがたくさん見つかりましたが、そのなかで情報科学屋さんを目指す人のメモというサイトを、参考のためご紹介しておきます。

個人情報は送っていないものの、PCを認識されてしまった可能性はあります。今後、うるさくなったりするのでしょうか。

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2018年09月26日

ゲンキアリマスカ?

夕方、6〜7人の外国人男性が、雨を避けるようにゾロゾロと店の前に入り込んできました。

大した降りではありませんから、誰も傘など持っていません。しかしほとんどが、手に手にコーヒーらしき飲み物のカップを持っています。

RIMG3215小店では、店内はもとより、表の均一コーナーでも飲食喫煙をお断りしており、その旨の英文掲示(家人が作成)も貼り出してあります。

ここは一言ご注意申し上げなければと、腰を浮かせかけたところ、中のお1人が片手でサッと棚から1冊の本を抜き出し、帳場まで来られました。500円のお買い上げ。

機先を制されて、言い出すきっかけを失ってしまい、その後しばらく店の表で、カップ片手に英語が飛び交うのを、黙認する羽目になりました。誰も貼り紙には、気づく様子もなし。

ものの5分もしないうちに引き上げてくれましたから、追い立てるようなことはせずに済みました。

それにしても雨の中をどこから歩いてきたのでしょう。持っていたカップは隣のコンビニでも、駅前のマックのものでもなさそうでしたから。引き上げた先は、隣の民泊のように思われます。

少しあと別の外国人が、こちらはお1人で店内に入ってこられ「スミマセン、ゲンキアリマスカ?」とご質問。面食らって聞き直しますと、バッグから取り出したのは1冊の本。「この2がありますか?」

表紙一杯に大きなアルファベットで、GENKIの5文字が配されています。Japan Times出版の日本語学習教材だと、あとから知りました。

旅行者にせよ生活者にせよ留学生にせよ、つくづく外国人が増えたと感じます。悪いこととは思いませんが。

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2018年09月25日

店を伸ばす商売

散水栓に蛇口がついて、店の前の植栽に水をやるのが格段に楽になった――などとこのブログに記したのは、調べてみたら9月5日のことでした。

その後、ネットで水まき用のホースを取り寄せたものの、実際にそれを使って水を撒いたのは、今日までにただ1回だけ。つまりこの20日近くの間、ほとんど連日のように雨が降っていたことになります。

もしかしたら丸1日、雨が降らなかった日もあったかもしれません。しかし、鉢に水をやる必要を感じた朝が、なかったことは確かです。

今日も1日降ったりやんだり。予報では、こんな天気が、まだしばらく続くとのこと。気がつけば9月も終盤で、今月も店売りはきびしい数字になりそうです。

さて今日の洋書会は、月末でネット入札併用特選市。店主も役員として、毎回数点ずつ出品しているのですが、ありがたいことに何点かは売れてくれます。

店主などが言えたセリフではないのですが、やはり市場は交換会。売りと買い、双方に利用できるところにこそ、その値打ちがあります。

RIMG3212今日の場合は3点が売れて、2点を落札。差し引きで、若干の売り越しとなりました。しかも売ったのは3点で6冊。買った2点は全部でおよそ80冊。冊数で比べると、ずいぶん増えたことになります。

一見、とても得したようですが、店主としては80冊を売って6冊買うような商売をしたい。店を伸ばしていくというのは、そういうことだという思いが、今も強いのです。

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2018年09月24日

ハイネは遠く

表の洋書棚のところで、本を手にして、楽しそうに言葉を交わしている男性2人に女性1人の3人組。男性の1人はヨーロッパ系外国人ですが、いずれも若い、まだ20代前半といった年恰好。

話されているのは日本語でしたが、どうやら興味がおありなのはドイツ語の本。ただ外国の方も含めてお三方とも、あまり本屋には、慣れていなさそう。

立ち居ふるまいから、それはすぐに察しられます。もちろん古本屋に慣れていない人は、いくらでもおいででしょうから、不思議ではありません。

RIMG3180やがて店内に入って来られ、そこにも外国書があるのに驚かれたらしく、さらにしばらく棚をご覧になられました。

おそらく日本人のお二人はドイツ語を習っておられ、お連れの外国人はその先生、というのが店主の勝手な見立て。

そのうち女性の「ハイネって何の人だっけ」と囁くように尋ねる声が、店主の耳まで届きました。続いて何かを読み上げるような男性の声。ふと見ると、スマホの画面を指で送っておられます。

後から帳場にお持ちくださいましたので、ご覧になっていた本が、レクラム文庫のハイネ詩集だと分かりましたが、お買い上げを決断されるまでに、しばらく時間を要しました。「19世紀の詩人」と聞いて、まずその古さが、ためらいの原因だったようです。

ハイネ研究者の嘆きが聞こえてきそうですが、ドイツ語を学ぶのは、必ずしもドイツ文学を学ぶためとは限りませんからね。

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2018年09月23日

秋分の日

KIMG0680彼岸花とはよく言ったもので、毎年この時期になると、忽然としてその姿を現すのが曼珠沙華の花です。

昨日まで何もなかったところに、ある日赤いものが目についたと思うと、いつの間にかそこにもここにも緑色の茎が立ち上がり、ことごとく天辺に赤い(時に白い)花を咲かせているのでした。

毎朝、車で通る道、それも家を出るとすぐのところに、この群生地があるのですが、毎年のことと分かっていても不意を突かれます。そしてお彼岸の季節となったことに、気づかされるのです。

今年のように記録的な酷暑が続いたあとでも、ほとんど日をたがえずスイッチが入るというのは、いったいどんな仕組みなのかと、不思議を覚えずにはおられません。

不思議と言えば、まだ酷暑の盛りのある夜、家に戻って車から出ると、頭上から降るように虫の声が聞こえました。蝉にも負けないくらいの音量ですが、明らかに蝉とは違います。

しばらくは何の鳴き声か分からなかったのですが、ある日のこと、偶然つけたTVで、コオロギは羽をすり合わせて音を出すのだが、気温が高いときほど大きく高い音を出す、という話をしておりました。

なるほど、そう言われればコオロギの声です。あまりに力強い音なので気がつかなかったのですが、その音色は確かにコロコロと聞こえました。この虫も、自前の暦を持っているのでしょう。自らの出番を、指折り数えていたかのようです。

やがて秋の深まりとともに、これが寂しげな音に変わっていき、「炉辺のこおろぎ」ともなるわけです。

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2018年09月22日

英国ドラマの光景

ご縁があって、いただいた本を、少しずつ読み進めています。これが案外(と言っては失礼ですが)面白い。

スキャン_20180922『英国を視る 1930年代の英国事情』(松浦嘉一、講談社学術文庫)というのがその本。この文庫が出版されたのは昭和59年と奥付にありますが、底本となっているのは、同じタイトルで第一書房から1940年に出版されたもの。

そのあたりの事情は、著者のご子息に当たる松浦高嶺さんによる「『学術文庫』のためのまえがき」と、外山滋比古さんによる巻末の「解説」に、詳しく書かれております。

なにより裏表紙に、その内容が端的に紹介されていますので、それを引用いたしましょう。

本書は、幻の名著と謳われてその復刊が待たれた英国見聞録で、西洋文化が生んだ理想国家イギリスの全貌を、1930年代の中流階層を中心にいきいきと描いている。わが国で初めて現れた一般向きのイギリス研究の書といわれ、初版が出てからすでに半世紀近い歳月が流れているが、いまなおきわめて新鮮であり、著者の静かな情熱が自ずと伝わってくる。確かな日本人の目がとらえた現代史の貴重な史料としても必読の書といえよう。

案外面白いと申し上げましたのは、もちろん著者の筆力にもよるのでしょうが、描かれている1930年代英国風景が、まざまざと目に浮かぶからです。

ただしそれは、単に描写力によるだけではなく、読者である店主の側が、すでにそうした光景の多くを見知っているからでもあります。どういうことか。

刑事フォイルや、ポアロ、ミスマープルもの、さらにはダウントンアビー、こうした英国TVドラマによって、20世紀前半の英国の社会、風俗そして景色などについて、多くの視覚情報を得ているからです。

だからですね。この本を読んでいて、もう一度それらのドラマを見たくなってきました。

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2018年09月21日

早く終わった市会

鉄道切符、いわゆる硬券というやつのなかには、1枚で何10万円というプレミアのつくものもある、と聞きました。

しかし今日の明治古典会に出ていたのは、質より量。菓子袋ほどの大きさのビニール袋に詰められた、おそらくは百を超える数の袋が平台に山積みされていましたが、落札価格は数千円だったようです。

1枚1円にも満たない価格とはいえ、それでも買い手がつくということのほうが、店主には不思議。ここにも「砂金採り」の生息する余地があるということでしょうか。

全体としては出品点数が少なく、早目に市場が終わりました。こんな時なら入れるかもしれないと、へぎそばの「金剛庵」に仲間が電話を入れたところ、奥の座敷席なら空いているという返事。

足が痛くなるので躊躇ったのですが、食べさせる料理のレベルは高い。不承不承ながら予約を入れておいて、夕方5時半に店に入りました。

まだほとんどの席は空いていましたが、一足先に着いていた仲間の話によると、何組か断られて帰っていったとのこと。店主らの予約で、満卓となったようで、相変わらずの人気店です。

早々とスタートして約2時間、足腰も限界となってきましたので、午後7時半にはお開き。席を立つと、足の付け根に痛みが走り、しばらくはヨタヨタと歩くはめに。

RIMG3176「どれくらい前に予約すれば、テーブル席が取れるのだろう」「座敷を掘りごたつ式にする気はないのだろうか」などと口にしつつ、ほかのメンバーも店主同様、足腰をさすりながら家路についたのでした。

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12月31日から1月3日まで
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