2012年10月22日

翻訳と書庫

何時のことだか忘れましたが、洋書会で数人集まっての話であったことは確かです。丸谷才一さんが亡くなったことも話題に上りましたから、それほど前のことではありません。

その丸谷さんの残した業績のひとつ「ユリシーズ」をめぐって、話題豊富なS書店が、共訳者のお一人から聞いたという話してくれました。かなりの部数が売れて、まとまった印税が入り、そのお金で書庫を建てたとか。

確かにグリーン版河出世界文学全集のあの刊だけ、カバーをつけて、後々まで重刷されていました。

その「ユリシーズ」の翻訳について、グロータース神父が柴田武氏との共著『誤訳 : ほんやく文化論』(三省堂, 1967)の中で、いくつかの誤訳を指摘しているのを、昔読んだ覚えがあります。

CA3K0388翻訳というものは難しいものだと、その時にも思いました。

今日、しばらくぶりに店においでになった金坂清則先生は、目下『完訳・日本奥地紀行』を平凡社・東洋文庫から刊行中です。全4巻で第1、2巻は発売中、第3巻が来月刊行予定。

気さくなお話好きで、小店にお寄りになるのは年に一度もないのですが、その度に面白いお話を聞かせてくださいます。

今回はご自身の著作にまつわるお話、というよりは、先行訳のおかしな点についてのご指摘。自らは正確な訳を得るために、一言一句、いかに細かく調べたかという苦労話。

聞きようによっては自慢話ですが、先生のお人柄で、一つも嫌味に聞こえません。とにかく熱中して、この著作に取り組まれているご様子が伝わってきました。

そのために書庫も新しくされたそうです。「まだこんな人間もいるんです。まあ帯だけでいいですから読んでください」そう言い残してお帰りになりました。

konoinfo at 19:30│Comments(0)TrackBack(0)

トラックバックURL

コメントする

このブログにコメントするにはログインが必要です。

Profile
Archives