2013年03月28日

活字本の盛衰

「近ごろ、ペーパー・バック流行のために、時々思いがけない書物を簡単に手にすることができるようになった」という書き出しで始まる短い文章は、下村寅太郎『わが書架』(北洋社、1979年)に収録されている「書斎の窓から」のなかの擦犯峭罎打たれた一章。

ヴェスパシアーノ(Vespasiano)という「15世紀フィレンツェの著名な本屋で、かつ文筆家」の著した『回想記』英訳本についての話です。

ちなみにその書名はThe Vespasiano Memoirs: Lives of Illustrious Men of the XVth Century.そのペーパーバックはHarperのTorchbookシリーズとして1963年に刊行されています。

ブルクハルトの『イタリアにおけるルネッサンスの文化』が、この本から着想を得ているなど、初めて知る話ばかりのこの文章をなぜ取り上げたかというと、次の部分に興味を覚えたからです。

15世紀当時、「王侯貴族富豪のヒューマニストの間に流行した古写本収集ブーム」というものがあったそうで、「時あたかも活字本の盛んになり出した時代であるが、収集家の間では、一冊でも活字本のある文庫は軽蔑されたという」。

さらに続けて「ヴェスパシアーノも活字本の横行をきらって、本屋を廃業し、引退して著作にふけった」そうです。

この文章が書かれたのは1965年。下村さんのこの本には、それぞれの文末に初出らしい年月日が付されていて、理解の助けとなっているのですが、どうせならどこに発表されたものかも記されていると、さらに良かった。

それはともあれ、つまり今から50年前に、その500年ほど前の書物をめぐる状況を書いた文章というわけです。その500年間に生じた違いと、それから後、50年に起きた変化と、果たしてどちらが大きなものといえるのでしょうか。

RIMG0109この『回想記』、Torchbook版に限らず、今ならもっとずっと「簡単に手にすることができる」のは申し上げるまでもありません。それをしかし、当のヴェスパシアーノなら、嘉すべき変化と見るでしょうか。

konoinfo at 19:30│Comments(2)TrackBack(0)

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この記事へのコメント

1. Posted by vespasiano   2013年03月29日 00:44
おお、vespasiano! 清水純一さんの『ルネサンス 人と思想』(平凡社)で教えてもらった名前が....15世紀に活字本が写本を駆逐(!)するのに要した時間はわずかに20年。電子本が活字本に取って代わるには何年を要するのでしょう?
2. Posted by 店主   2013年04月01日 18:29
コメントありがとうございます。
しかしながら、こういうコメントをいただくと、無知を晒して書き続けるのが怖くなります。
それはともあれ、たとえ取って代わられても、
しぶとく活字本が生き延びてくれることを、祈るばかりです。

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