2013年10月14日

マニアの時代

整理していると、なぜこんな薄汚れた本を今まで取っておいたのだろうと、不思議に思うような本が出てきます。特別珍しいというわけでもないのに。

この間出てきたのは、どうやら松本克平さんが書入れをされたと思われる、新劇関係の本。どこにもその証拠はないのですが、ずっと昔、市場に出た旧蔵書の一部を買った覚えはあります。

もちろん、だから値打ちがあるというほどのものではありません。しかし、均一本にしたり、ましてや処分したりする気にはなれず、また仕舞い込んだのでした。

イメージ (141)今日その松本さんの著書『私の古本大学』
(育英社 1981年)が出てきて、そのことを思い出し、さてこの前の本がなんであったか、まだ仕舞い込んだばかりの場所を探したのですが、もう分からなくなっていました。

松本さんと言えば、金曜日の朝、古書会館に並ぶ姿は名物のようになっていました。亡くなられたのが1995年ですから、今では即売展に参加している業者でも、その姿を知らない人の方が、多くなっているかもしれません。

この本の付録として、谷沢永一さんとの対談が10頁の栞になっています。

見つけることも手に入れることも、今よりはるかに難しく、だからこそ喜びも大きかったであろう、古き良き「古本マニア」の時代は、この時点ではまだ終焉を予測されている気配はありません。

読みながらそんな感慨に耽っていると、表で賑やかな声がして、若者の一団から別れた一人の男性が、「ネットで見たのですが、この本はありますか」とスマートフォンを差し出しました。

画面にあったのは、『しぶや酔虎伝 : とん平・35年の歩み』(1982年)。「とん平」35周年記念文集刊行会編になる非売本です。

渋谷のんべい横丁の歴史を調べようと思っているという30代の男性に、帯にずらりと並ぶ執筆者の名を示しながら、「この本自体が資料というよりは、ここから多くのヒントが見つかると思います」とお勧めしました。

その時、その数十名のなかに松本克平さんの名があることに、改めて気づいたのでした。

konoinfo at 19:30│Comments(0)TrackBack(0)

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