2013年12月23日

古本のない国

RIMG0772古本屋さんがいつまでも栄える国には、人間が快く住めるであろう。古本のない国には人間は住めないだろう。(原文は正字・新かな)

『僕の手帖』(渡邊一夫 河出書房市民文庫 昭和27年)に見つけた一文です。

「僕の手帖/僕の願い/読書と僕」と三部に分けられた、その第三部には四本の短文がまとめられ、その中でも特に短い「古本」と題された僅か3頁の文章。

もう一か所引いてしまいましょう。

暇を作って、古本屋に這入り、ぼんやり書棚を眺めているうちに、昨夜考えたことや、昔興味を持ちながら忘れてしまったことなどに関するぼろぼろな古本を発見したときのたとえようもないうれしさは、こうした経験のない方々には全く判らないだろう。(同前)

じつはこの裸本で紙もヤケ、今にも壊れそうな文庫本を開いて、最初の To the unhappy few を読んだときに感じた気分が、二行目以下の、まさにこのとおりだったのです。

……ですから、僕は君から、またかい!と笑われても、人間が自分の作ったものの機械になるのは困ると繰返し繰返し言っているつもりなのですよ。

これが本書の出だし。冒頭の三点リーダは原文のままです。内容はユマニストの面目躍如といったところ。大江健三郎の随筆に似たような文体を見るのは、師への心酔の表れでしょう。

この本、講談社学術文庫で昭和52年に再刊されましたから、手に入れるのはさほど難しくありません。

でもせっかくなら、この河出版の黄ばんだ紙で読むほうが、味わいが深そうな気がします。

なんでもオンデマンドやダウンロードで手に入ってしまうというのは、「古本のない国」への道なのではないでしょうか。

konoinfo at 18:30│Comments(0)TrackBack(0)

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