2014年02月19日

二つの文章

本書は順調にゆけば1969年頃には少し別な形で出版せられてゐたかも知れなかったが、無意味で不快な東京大学紛争のために、思索も出版も大いに妨げられた。それにも拘らず、時日の多少の遅延を除き、所期の目的を達しえたのは、愚かしい紛争中もこの種の講義を含めて一度も休むことなく参集して、真理の共同的探求といふ大学活動を続けた東京大学文学部美学藝術学部研究室全員、すなはち全教職員と全大学院学生諸兄姉の好学の念に負ふところが多い。

ぼくは、自分の学徒出陣の体験などから、戦後の学生運動に一貫した関心を持たざるを得なかったので、駒場の学生運動のリーダーたちとはたえず個人的な交渉をもっていた。(中略)その後の事態の異常な激化は、半年後には再び学部首脳の交代を余儀なくして、ぼく自身が学部評議員として安田講堂落城の前後にわたって、かつての軍隊時代にもなかったような身体的危険の経験も味わった。

最近、相前後して目にした二つの文章です。

前者は今道友信『同一性の自己塑性』(東京大学出版会 1971年)の後記から。

後者は平井啓之「同舟の人、前田陽一先生」(『前田陽一 その人その文』編集刊行委員会 1989年)から。

ちなみに今道先生は1922年、平井先生は1921年のお生まれ。

RIMG0900世代論を持ち出す気はありませんが、この、ほぼ同年のお二人の、あの時代に対する見方、処し方がかくも対照的であったことに、色々と考えさせられました。

もっとも、今道先生の文から被害者意識しか窺えないのは、まだ記憶も生々しい時期だったからかもしれません。

どちらも尊敬すべき先生ではありますが、平井先生には偶然、その晩年に知遇を得ることが出来ました。

それ以前から、お考えの一端を著作などにより存じていたこともあって、とてもうれしい出会いであったことを思い出します。

konoinfo at 19:30│Comments(0)TrackBack(0)

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