2014年04月11日

荷風のセールストーク

磯田光一『思想としての東京』(講談社文芸文庫)を、例によってチビチビと地下鉄の中で読み継いで、ようやく最後の頁へたどり着きました。

約30年ぶりに読み返したと言っても、冒頭付近の、東京地図を読み解く部分が僅かに記憶に残っていた程度ですから、初めて読むのも同じです。

この本が偶然目に留まり、すぐ手に取って読み進めることになったのは、その前に読み終えていた『荷風随筆(上)』(岩波文庫)によって、「東京」という土地についての関心を、かき立てられたからかも知れません。

ですから本書の「あとがき」に、「荷風論を「群像」に連載しはじめたころ、たまたま「月刊エコノミスト」から短期連載評論を求められて書いたのが、この本の原型にあたるもの」とあるのを読み、実に得心が行ったのでした。

さて今日の明治古典会に、その荷風のハガキが出品され、たった一枚ですが、最終台の緋毛氈の上に並べられました。

RIMG1142 (2)折も折ですから、とっくりとそのハガキを検分させていただきました。

宛先は「丸の内/東京日日新聞社/文芸部」最後の字句は自信がありません、住所表記の簡便さにばかり気を取られておりましたので。

差出人は永井壮吉、麻布のいわゆる偏奇館から出されたものです。消印の日付は頭の数字「9」だけ見えて、大正9年と思われます。まさに、転居した年。

ひっくり返すと、毛筆の細かな文字がぎっしり。崩し字も多く、読めない部分も多かったのですが、どうやら「小説家永井荷風」の売り込みを兼ねた料金通知書のようです。

不思議な点が一つありました。末尾に「月」「日」の文字があり、それぞれの上が空欄になっているのです。つまり日付が入っておりません。

思うに、同じ文面で何枚か書き上げておいたのではないでしょうか。あとから宛名を書いて送る際、つい日付を入れ忘れたとか。

konoinfo at 22:07│Comments(0)TrackBack(0)

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