2016年11月22日

VULGATA

医師から、本を読むことを止められる病気があるようです。それも目の病でではなく、精神の病でです。

もちろん楽しみに本を読んでいる人ではなく、それを仕事にしているような人の場合。つまり研究者などが、そうした病に冒される場合があるらしいのです。

辛いことに違いありません。言うならば、水泳選手が水に入るのを止められるようなもの、ほとんど死活問題です。

今回、この話を聞いたのは、すでに立派な業績を残されている学者さんに関するものでしたが、それで思い出したのは、過去に良く小店をご利用いただいていたある研究生のことです。

しばらくお顔を見なくなって、何年ぶりかでご来店になった時、以前のように大きな手提げカバンを持ってこられ、その中の本をお売りになりたいと言われました。

いつもそうしてまずお売りいただき、それから改めて店内を見て、何かしら買って行かれるのです。

しかしその時は、お売りいただいた後で「しばらく本は買えません、医者から止められているのです」とおっしゃって、そのままお帰りになりました。

「許しが出たらあの本を買わせていただきますから」と、棚の一番上に乗せてある2冊本のVULGATAを指さしたあとで。

そういえばあれ以来、その方をお見かけしません。もう何年経つでしょう。何をご専門にされていたかも存じませんが、英独仏語はもとより、古典語まで読まれる読書家でした。

医師の許しはついに出ないままなのでしょうか。VULGATAは、いくらか色褪せて棚の上に乗ったままです。

KIMG0563他人事ではありません。本屋の死活問題は腰。これを痛めて、医師から「重いものを持ってはいけません」と宣告されたら――そう思うとぞっといたします。

konoinfo at 19:30│Comments(0)TrackBack(0)

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