2019年05月02日

身につまされる

kemuri正直に白状いたしますが、島木健作「煙」を、今回初めて読みました。

お客様から買い取らせていただいた中にあった『書物愛[日本編]』(紀田順一郎編・創元ライブラリ・2014年)に収録されている一作です。

このお客様というのは、数年前に定年退職された元大学教授。仕事柄、という以上の本好きでいらっしゃって、退職後も時おり、手で提げられるほどの本をお持ちくださっては、また何かしらお買い上げになっていかれます。

今回お持ちいただいた中には、この文庫を始め、本に関わる本が何冊かありました。そこでつい売り物にする前に、読ませていただいたというわけです。

さて「煙」ですが、今ごろ読んだのかというお叱りを受けそうな一篇。著者が古本屋と関りがあったということは、どこかで耳にした記憶はあります。しかしそれが、このような作品として残されていたことを存じませんでした。

店主の不勉強は、今さら申し上げるに及びませんが。

戦前の市場の様子が、それも洋書を扱う市場の様子が描かれています。廻し入札で「興奮して」札を入れたのは「ヴィンケルマンとかブルックハルトとかヴェルフリンとか」といった美術書の口。惚れ込んで高買いしすぎ、後で悔やんでいるところなど、実に身につまされました。

店主も20年以上前、同じような美術史家の一口を落札したことがあります。悔やむほどの高買いではありませんでしたが、結局ほとんど売れませんでしたので、まさにわがことのように思えたのです。

konoinfo at 18:30│Comments(0)

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