2019年11月11日

本の受難

平成生まれの我が家の末娘が、どうしたわけか大の「寅さん」ファンで、親としては、入荷した中に関連書籍など見つけるたび、店頭に出す前に娘に見せてやろうと、裏の一画に溜めておいたりしております。

スキャン_20191111そこに一冊、山田洋次さんの『映画館(こや)がはねて』(中公文庫1989年)があり、今日、近所のかかりつけの医者に、いつもの薬をもらいに出かけた際、それを持って行き、待合室で読みました。

ふだんは空いている医院なのですが、今日は間が悪く、30分ほども待たされたでしょうか。おかげで半分ほど読み進めました。

そのごく初めの部分で、山田監督が中学生の頃、大連で敗戦を迎え、厳しい売り食い生活を余儀なくされた話が語られます。

そして隣の部屋の住人から預かった本を街頭に並べて売っていると、ある男性が一冊の本に目を止め、いくらかと尋ねます。
見ると古くさい本だったので適当に「十円です」と南京豆十粒くらいの値段を言ったところ、その男は溜息交じりにこんなことを言った。
「いいかい君、これは永井荷風の『濹東綺譚』の初版本といってね、大変値打ちのある本なんだぜ、十円なんかで売っちゃいかんよ」
その男はしばらく未練がましく『濹東綺譚』を眺めていたが、結局買わずに行ってしまった。

ここだけ抜き出しては話の味が伝わりませんが、古本屋として気になる一節なので取り上げました。

しかしそれより痛ましいのは、寒い大連の冬を越すため、家具から建具から、燃えるものはことごとくストーブで燃やした話です。

隣人の残していった「クロス張りの世界文学全集も、大版(ママ)のチエホフ全集も、背革のがんじょうなバルザック全集もみなストーブの灰となり、ついに燃やすものがなくなってしまった頃」引き上げ船に乗る順番が来たというのでした。

konoinfo at 19:30│Comments(0)

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